鏡文字のようなあなたの話







結局そうだ。全てが上手くいくっていう世の中じゃない。
それでも俺が三郎を心から愛していて、三郎がいないと息ができないってことは変わりないのだ。


「でも、兵助。現にお前、生きてんじゃん」
「何か言った?何で現れたのは三郎じゃなくて勘ちゃんなのかな」
「はいはい。鉢屋じゃなくて悪かったね」


カタカタと文字をパソコンに打ち込む音だけが室内に響き、勘右衛門の吸っていた煙草の煙が只でさえ息苦しい室内をより一層呼吸しづらい環境にする。
残業組の所にあるネームプレートには、尾浜・久々知の二名だけ。あぁ、なんてブラックな会社!と口ずさむ勘右衛門の様子を目端にとらえながらも兵助はひたすら文字を打ち込む。



「んー!じゃぁ、そんな頑張っている久々知クンにエンジェル勘ちゃんからとーっても良い情報を教えてあげましょう!」
「なに?今、結構頭使うところなんだけど…30文字以内で言ってくれ」
「えー?知りたくないの?もー兵助ったらあ!」


まるで神経を逆なでするような猫声に、一瞬頭がスパークしそうになるのを耐える。目の前にいるこの男が社長の息子じゃなかったら確実に、今、この手で埋めてやる。




「久々知クンの愛しい、愛しい鉢屋三郎君?がみつか」


飄々と喋る口を片手でつかめば、タコの様な唇の勘右衛門は目だけにやりと不気味に笑う。眉間に皺をよせて、勘右衛門の瞳を見つめる兵助の目はまるで敵を見ているかのようで。


「何処だ、三郎はどこだ」
「ひゃらひーひぇいひゅけー」
「三郎は、何処にいるんだ…教えてくれ…勘ちゃん」


がさごそと目の前で、勘右衛門はスーツのポケットから最新型のスマフォを取りだし何かしら操作した後、兵助の目の前に画面を突きだした。


「はい、鉢屋だよ」
「…………え……」
「ってか、今までニュース以外のテレビを見ない兵助が悪いんじゃない?」



画面はテレビモードになっており、その中には動く人。ごく普通のバラエティ番組が繰り広げられていて。


『今日のゲストは鉢屋さんです。鉢屋さんは、最近OO監督の作品で主演男優賞を獲得なされたんですよね』
『……はい、光栄に思います』
『何故、この作品に出ようと思ったのですか』
『あぁ、それですか…。いや、ただ単に自己満足です』
『へぇ、どのような?』
『人を探してるんです。4人ほど。だから…映画にでもでれば、あっちから来てくれるかなって』


画面の中の男は坦々と述べる。

『ずっと、前から逢いたいのに会えないんですよ。どの世界でも、どの場所でも。だから、いっそ私が目立てばいいかと思って』


にやっと口元をあげる男の表情は、あの頃と変わらない。ぎゅっと胸が締め付けられて痛い。いたい、イタイ。


「勘ちゃん…行こう」
「もちろん、俺の権力使いまくっちゃうよ」


残業途中のオフィスを飛び出して二人でタクシーを捕まえる。久しぶりに心が躍った、そんな気がした。













始点も合わない、ましてや終点さえも合わない
それでも僕らは同じ文字数で、同じ時を過ごしてる










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