ふわふわ女 | ナノ








例えるとしたら草食動物。それもウサギとかリスとかハムスターみたいな小さい生き物だ。雰囲気はふわふわ、ほわほわ。抱きしめたら折れてしまいそうに細く、笑顔は可愛らしい。つまるところ、好みである。


「シズちゃんさ、いつもこの時間になると廊下のほう見てるよね。」
「うっせえノミ蟲。来んな。」
「何見てるの?」
「…テメェには関係ねぇ。」
「今新羅と喋ってる女の子、いとこだよ。」
「(なんでこいつ、俺が見てたの解るんだ)」
「図星でしょ。」


ば、と隣を見ると臨也が妙にニヤついた顔で、だってさっきから全然目線が動いてないもん。と笑った。そんなに解り易いか。とりあえず相手をしていると貴重なふわふわ女の姿を見る時間が無くなるので殴っておいた。見事にこめかみにヒットしたらしくうずくまる臨也を無視していつもの10分休みを過ごす。ちなみにふわふわ女とは俺が勝手に付けたあだ名だ。


3限目終わりと4限目の始まりの間の10分休み。この時間はいつも新羅がいとこのふわふわ女と話すことにしている。中々女子が近寄って来ない新羅と話しているふわふわ女は周りにかなり奇妙な目で見られている。臨也が言うに中学の頃からふわふわ女を可愛がっているセルティが新羅に彼女を気にしてやれ、と言われているらしい。新羅も幼なじみなだけあって快諾したようだ。
そんな新羅を見るようになって、ふわふわ女が気になり始めた。だが話したことも無ければ俺にはあまり良い噂が立っていない。ふわふわ女はかなりの怖がりらしく、セルティもかなり心配しているらしい。尚更近づけない。ふぅ、と溜め息を吐いて視線を戻すと新羅がこちらに戻ってきた。会話が終わったようだ。


「どうしたの、静雄。僕たちのことなんか見て。」
「…別に。」
「シズちゃん、新羅のいとこが気になるんだってさ。」
「ってめ、臨也!!」
「ああ、それなら呼んであげようか?」


いつの間にか復活してきた臨也が余計な茶々を入れてきた。それに乗った新羅がふわふわ女を呼びに消える。嘘だろ、まだ心の準備ができてねーよ。そんな俺の姿を見た臨也が真っ赤だね、と呟いた。うるせえ。がつん、と臨也を殴った瞬間に息を呑む音が聞こえた。まさか。恐る恐る振り返るとふわふわ女が、目の前に居た。


「この子だよ。僕のいとこ。」
「…おう。」
「久しぶり。最近全然話してなかったよねぇ。」
「はぁ?臨也、テメェ知り合いなのかよ。」
「…シズちゃん、俺が新羅と同じ中学だったってこと忘れてるでしょ。」


俺たちが話しているのをふわふわ女は少し不安そうに見つめていた。ぱち、と目が合うと勢い良く逸らされてしまう。やっぱ怖がられたか。俺の恋心が儚く散っていくのを感じながらもう帰って良いぞ、と告げる。ふわふわ女はびくっと肩を震わせて会釈をすると走り去ってしまった。それを見ていた臨也があーあ、と声をあげた。


「ふられちゃったね。」
「臨也のこと殴ってたの見られてたし…絶対怖がってたよ。ああ!だけどついに静雄に春が訪れたんだね。まさに一陽来復!」
「…お前ら黙っとけ。特に新羅。」


チャイムの音が響く。後ろ姿が遠くなっていくのを、ずっと見つめていた。溜め息がまた1つ、漏れる。小難しい言葉をベラベラ並べ始めた新羅にデコピンをして視線を黒板に移した。うう、と唸る声を横目に退屈な授業が始まる。ふわふわ女は、何の授業を受けているのだろう。



(20110323)
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