drrr | ナノ
※7巻ネタバレ有り
「おい帝人、今お前の彼女、凄い人気なの知ってるか?」
「え?!どういうこと?」
放課後、教室。帝人と正臣は2人で帝人の彼女である名前を待っていた。彼女は日直らしく終わるまでの間、こうして2人で話していたらやはり話題は最近付き合い始めた帝人と名前のことだった。
付き合って日の浅い2人は他から見ても実に初々しかった。手を繋ぐのも一苦労だったしキスもまともにしていない。
そんな2人の動向をいつも見守っているのが正臣であった。2人をくっつける手伝いをしたのも正臣であり、帝人はよく正臣に恋愛について相談していた。そんな正臣の口から出たのは彼女が最近人気がある、という話しだった。
「いやー前から可愛いと思ってたけどな、名前。この前も隣のクラスのやつに告られてたし、俺の友達も告ってたぜ。」
「そ、そうなんだ…。」
「帝人と付き合ってることを知ってて告る奴も居るし、知らないで告る奴も居る。ここでガツンと言わねーと他のやつに取られるぞ!」
「え?!いや、何それ…恥ずかしいじゃん。」
「かわいー彼女が取られてもいいのか?!こいつは俺の女だから手出すな!って言ってやれ!」
「正臣、それ寒い。でも確かに取られるのは困るなあ…。」
正臣はいつものオーバーリアクションで帝人に力説している。それを冷たくあしらいながらも帝人も焦っていた。最近は後輩である青葉も彼女によく話し掛けているのを見かける。そんなことを考えていると名前が教室に入ってきた。
「おっ噂をすればだな。」
「あれ、正臣くん?」
「一緒に待っててくれたんだよ。」
「じゃあ俺はそろそろ行くかな。後は頑張れよ、帝人。」
にか、と笑って正臣はばたばたと教室を出て行った。頑張れ?と聞く名前に帝人は適当にごまかしていると聞き覚えがある声が聞こえてきた。
「名前先輩。こんにちは。」
「あれ、青葉くん。」
「…帝人先輩も、こんにちは。」
「どうしてこんなところに?」
「用事があって。それで名前先輩が見えたので声かけちゃいました。」
無邪気に笑うのは先ほど彼女に手を出している人として思い浮かべた黒沼青葉だった。にこにこと名前に話し掛ける一方、どこか帝人と距離を置くような態度を取っている。この前の一件からだろうか。2人は楽しそうに話を進めている。もやもやした気持ちが胸を占めるのが解った。それが段々とイライラに変わる。ああ自分は嫉妬しているんだ。帝人はがたんと立ち上がった。
「どうしたの?」
「帝人先輩?」
「名前は僕のだからさ、」
先ほど正臣に言われた言葉を復唱するように、でも自分の言葉で、感情で。帝人はそのフレーズを言った。
「手、出さないでくれる?」
「…え。」
「み…帝人?」
「名前、帰ろう。」
「え…あ、うん。じゃあね、青葉くん。」
「あ、はい。さようなら…。」
にっこり。という言葉通りに帝人は微笑んだ。青葉は固まり、名前は真っ赤に頬を染めている。帝人はそのまま彼女の手を取り走り出した。酷く、すっきりとしていた。
「帝人!い、今の言葉…。」
「…あー、うん…ごめん…。」
ぴたりと走りを止めると息が上がって更に顔を赤くした名前が手をきゅっと握り返した。帝人は向かい直すと自身がやったことを思い出して恥ずかしさに俯いてしまった。名前はふにゃふにゃといつもの笑みを浮かべた。
「すごくすごく、嬉しかった。」
「…うん。」
「ありがとう。帝人。」
「あ、あのさ…」
抱きしめて良い?
帝人がそう聞くと名前は恥ずかしそうにはにかんで、こくりと頷いた。ああ、彼女をこのまま連れ去ってしまいたい。取り敢えず正臣には感謝だな、と思い微笑んだ。
それから彼女を手を出すものは居なくなった。あの青葉ですら身を引いたのだ。昨日廻ったダラーズのメールの内容は、言うまでもない。
足取りは軽い、だって。
(君がそばに居る!)
※title→欲槽
(20101029)
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