啓人は他の奴より一層柔らかい、ふっくらしてるっていうのは聞こえ悪くすりゃ太ってるってことになっけど、でも本当にパンの様に柔らかい。

「どうしたの?大輔くん」
「んー」

 頬をつつけばつつくほど、沈んでいく指先にはふわふわとした焼きたてのパンの様な感触。
 くすぐったいのかこそばゆそうに表情を歪める啓人は下手すると女みたいで、なんつーかその、変な気分っつーか、うん。
 でも凛とした声が聞こえればそれもはっとして消える、おれ、何言ってんだぁ…。
 啓人は啓人で呑気に、なにするのさぁ、だってよ、こいつ本当に男かよ。

「ちっちぇ」
「これからのびるの」
「迷子になってそうだよな、啓人って」
「失礼だなー」

 頬を膨らましてそいつは言った、ぷにぷにとしてる頬は空気がめいっぱい入っていてつぶすと啓人の口からぷすぷす音が鳴る、それすらもちょっと気に入らないのか必死におれの手を避けようとするけどおれは意地でもそれをやめない。
 やだやだ、と、子供のような反応をする、っつったって子供だけどさぁ。
 すると嫌気がさしたのか、ずんずんとおれを置いていくように早々と足を動かす啓人、置いて行かれたような気分になってやり過ぎたかなーなんて反省するけど、でもそれは啓人がいけないわけで。
 っていうのも、いいわけだけどよ。

 別に追いつかないことはない、視界に入る啓人の背中をゆっくり追うように歩いて暫く、啓人が足をぴたりととめた。
 疲れたのかー?
 遠くから声をかけても返事なし、なんだよ態度わりーなーなんて今度はおれがむっとしてしまう。
 あっという間に追いついた時だ、ぐるりと体の向きを変えた啓人は俯きながら、掌を出してきた。

「あ?」
「…ん」
「あんだよ」
「道、判んないから、手、つないで、ください」

 後になるにつれてぼそぼそと小声になっていったけど、おれぁばっちり聞いたね。
 にやりと笑ってやれば恥ずかしさがピークなのか腕を下ろそうとする啓人の手を静止するかのように腕をつかんだ。
 手首ですら柔らかい。
 おこちゃまだよなー!
 けらけらと笑ってやると顔を真っ赤にしてぎゃーぎゃーと騒ぎ立てはじめた啓人だけどそこがどうもこいつらしいと思ってしまうものだから不思議だ。

「ぜってーはなしてやんねえ」
「なんか、性格変わったね、大輔くん」
「きのせいだって!そんじゃ、早くいくか!」





最初っから
(迷子なのはどっちも一緒だしな!)
(ああーもー大輔くんのせいだよ!)
(あんだと!?)
(サッカーボールがあるーだなんて嘘ついて!)
(あったじゃねえか!)
(ただの石だったじゃない!)
(悪かった!)
(許してあげる!)

 だからもう少し長く一緒にいてね?

 啓人は割と大胆な奴だった。





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