あのまま自分たちの世界に帰るはずだった、そのはずだったのに、気付けばぼくたちはデジタルワールドにいて、太一さんなんて中学二年生の姿になっている。
 聞けばぼくたちの世界の仲間も、このデジタルワールドにいるみたい。
 確かにギルモンも反応しているから、このデジタルワールドはきっとぼくたちのところよりもうんと、うんと広く大きい世界なんだろう、だからジェンやルキたちと離れてしまったんだ。
 あれから会っていない、会いたい、会いたいよ、ジェン、ルキ。


「なんだぁ元気ねぇなー」
「大輔さん…」


 運よく固まったのは歴代として集められたメンバーで、タイキさんや太一さん、大さんはあれやこれやと話してる中、タギルくん、拓也くん、そしてぼくと大輔さんは蚊帳の外。
 拓也くんはこの状況にどう思っていることもなく、タギルくんもどこかにデジモンがいないか探してる、ぼくは、ぼくはそんなことしていられないのに、どうして、あんな風に振る舞えるのだろう。
 足を三角にして膝を抱えていると、大輔さんが頭上から話しかけてきた。
 覗き込むようにしてぼくを見つめるその顔は、なんだか楽しそう。


「なんで笑ってられるんですか?」
「だぁってよー新しい場所だぜ?こりゃ探検するっきゃねーだろ」
「でも、」
「それにこんな機会、二度とないしなー」


 確かに、こうして次元の違うみんなと会えるなんてこと、二度もあったら歴史がどうなってしまうことやら…。
 しかしこれでも同い年、やっぱりわくわくとしている大輔さんは立派な小学五年生で、立派な男の子だ。
 ぼくも男の子だけどさ、こんな風になれないよ、だって心細いしジェンやルキもいないし…。
 なんて、さっきあれほど暴れておいてぼくは何を言っているのだろう。
 興味津々にあたりを見渡す大輔さんに少しだけ笑みが零れた、何笑ってんだよーなんて笑顔で返してきて、そうとう楽しんでいる様子だ。
 ここにはパートナーもいるし進化も大丈夫みたいだから、なんだかぼくも少しずつ元気を取り戻してきているのかも、大輔さんの行動にいちいち笑ってしまう。


「なぁ、ここにいても暇だろ、その辺探検しようぜ」
「え、でも太一さんはまだ駄目だって」
「あー…太一さんに逆らうことはしたくないけど、でも暇だろ?な、ちょっとだけ!後でオレのせいにしていいからよ!」
「でも…」
「なーにしてるんだ大輔」
「た、太一さん…!」


 まるで悪い先輩に誘われるがごとく断れないぼくを見ながら、そっと大輔さんの後ろから太一さんが現れた。
 話し合いは終わったのか、タイキさんもタギルくんを静止している。
 太一さんも大輔さんを逃がさんばかりに襟元のふわふわした部分をつかみやり、大輔さんはしまったと言いたげな困った表情で乾いた笑みを漏らしていた。

 しっかりとしたお叱りを受ける大輔さんを見つめることしかできないまま数分、太一さんの満足した笑顔をみてほっとする。
 啓人は偉いなー。
 なんて大輔さんに釘を刺すようにいえばどきりとしたのか体をびくつかせた大輔さんはまた乾いた笑みであはは、と笑っているだけ、太一さんの言葉に逆らえないままそこから動くことなくぼくと大輔さんは隣同士に座っていて、太一さんはまた話し合いに向かった。


「ひゃーおっかねー」
「いいんですか、そんなこと言って」
「…聞かれてないよな」
「心配なら言わないでくださいよー」


 あぐらをかいてぐわしぐわしと荒々しく己の後頭部をかきむしる大輔さんは普段とは違った雰囲気。
 いつもは太一さん太一さんって騒がしいのに、今日はやけにぼくの傍にいる。


「珍しいですね」
「へ?」
「いつも太一さんの傍にいるのに」
「…啓人が、元気なかったからさ」
「え?」
「あーもーなんでもねーよ!鈍いなー!」


 急に大声を張り上げて立ち上がった大輔さんはどこか恥ずかしそうにしていて、訳の分からなそうなぼくの頭を強く一度撫でやってからぼくのもとから離れ拓也くん達のもとへ向かった。
 未だに大輔さんの心情や行動が読み取れないけど、でも直感で思ったことは、これは彼なりの気遣いや励ましなのだろう。
 くすりと笑って逃げるようにして去った大輔さんのもとへ駆け足で追いかけて、ぽんっと彼の肩を優しく叩いた。





気遣い、
(ありがとう、大輔さん)
(ぜってーわかってねえだろ)
(え?)
(あーもー!)


 なんだかよくわからないけど、ほっぺたを思い切りむにりとつねられてしまった。





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