「り…ジェン!」 「あ、タカト!どうしたの?僕のクラスに用事?」
ぼくは戸惑っていたのに、ジェンは普通にぼくに話しかけてくれる。 首を横に大きく振って、そっと彼の耳へ手で隠しながら口を持っていき小さい声で計画の事を伝える。 同い年なのに、ヒロカズと同じくらいの背丈の彼にちょっとばかしかかとが浮いてしまう、それに気付いてか少し屈んでくれるジェンに、心がざわっとしたのは仕方ないことだ。 デジタルワールド、そこへ行く計画のためにぼくたちは連絡を取り合っている、ルキは…きっとなんとかなると思う、ぼくも腹を括ってお母さんたちに言わなくちゃ。
「そういうわけだから、今日の放課後、遅くなる」 「そうか…あまり無茶はしないでくれよ、君は…いや、君たちはいつも無茶してるから」 「大丈夫!任せてよ!」 「うん…、あ、僕は旅行ってことにしたから」 「わかった!それじゃあ!」
ジェンって呼ぶ時のぼく、変じゃなかったかな。 急ぎ足でその場を去って自分の机へと戻る、ヒロカズとケンタ、そして加藤さん、ぼくたちが決めた作戦を実行するためにアイコンタクトを交わして、最後の授業に入る。 無茶ってなんだろう、ジェンにはぼくらが無茶してるように見えてたのかな、それとも言いかけていたぼくだけがそんなに無茶してるように見えたのかな。 さっきの会話を思い出しながらぼくは窓の外を見上げた、青い青い空がまるでジェンみたいで落ち着くなあ…。 そう思い始めたのは最近の事、呼び捨てしていなかったころのもやもやが晴れたのも最近、きっと仲が深くなっていくことに喜びを感じてるんだ、それも親友のようになれるかもしれないって、今から確信してるんだ。 ジェンも、この空を見てるかな。 辛い戦いが待ってるかもしれないのに、ぼくは不謹慎にもすがすがとした笑みを浮かべてしまった。
「それで、ナミ先生、おっかけてきちゃって」 「そうなんだ、それで?」 「う、うん…」 「? タカト?」
朝六時に待ち合わせすることを決めて、みんなと別れた後、どうしても不安で仕方なくて、つい、ジェンに電話してしまった、ただ話をしたかっただけだったんだ、それなのに、ジェンは家にまで来てくれた、なんだか悪いなあ。 そう遠くないとは言え、こんなことで呼び出すなんてほとほと自分に呆れるよ。
部屋に上げればいつもの優しい笑顔でぼくの話を聞いてくれるジェン、ナミ先生を困らせて、親を困らせて、ぼく、こんな気持ちでデジタルワールドにいけるのかなって、とぎれとぎれにそう話せばジェンは相槌をうって答えてくれて、時折悲しそうな顔したりして、きっと、きっとジェンも同じなんだ、不安で不安で仕方なくて、それなのにぼくったら。 口に出している言葉がどんどん自分を追い込んで、ジェンの表情の変化に胸が苦しくなって、声が小さくなるぼくの肩にそっとジェンの手がのった。 目を見開いて彼を見ると、彼も目を見開いて、それでいて心配そうにぼくに話しかけていた。
「大丈夫?タカト、」 「え?あ、ああうん!ごめん!」 「謝ることじゃないよ、でも無理はしないでほしいな」 「無理?」 「話すのがつらいなら、話さなくていいんだよってこと」
にっこりと、そんな効果音がつくような笑顔でジェンは言う。 同じ小学五年生とは思えない、彼の考え方や容姿には、嫉妬してしまうときもあるけど、自慢の友達だとも思えるんだ。 落ち着いたように笑い返すと、ジェンがさらに近づいてきて、なんだかわからないけど嫌じゃなくて、どちらかと言えば落ち着くから。 でも流石に近いような気がする、お互いの鼻先がくっつくのと同時に、ぼくは声を張り上げた。
「じ、ジェン!」 「っ、あ、ごめんタカト!つい、あはは…」
顔を真っ赤にするジェンを見たら、どうしてかな、嬉しくて、不安が消えちゃった。 加藤さんとはちょっと違うこの胸の高鳴りは、なんだろう。
距離。 (か、帰ろうかな!) (え、か、えるの?) (え?) (へ?)
数分見つめあって固まってたけど、ぼくたちはお互い顔を赤くして今日は別れを告げた。 なんでだろう、すごく恥ずかしい。
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