「啓人ぉ」
「はい?」
「いや、はい?じゃなくて、それやめろって」
「え、それって」
「敬語」
大輔や拓也だったらこんなこと言わねえけど、啓人は誰にでも敬語だからちょっと面白くない、いやこいつも拓也にはこんなんじゃあねえんだ、大輔にも最近なれてきたのか普通に話してる、俺を差し置いて大輔にはタメ口?ならねえならねえ俺が最初だろ? ただそれだけのちょっとしたわがままなんだけど、いろんなやつにちやほやされてきた俺はここにきてまでそれを味わいたいわけじゃない、大やタイキにおんなじように接してもらえるのが本当にありがたいぐらいだぜ。 上辺だけ綺麗事並べてみたが、まあ要するに俺は啓人ともっと仲良くなりてえんだ、それはそういう意味で、な。
脳内ぐるぐる考えることがたくさんありすぎて、だけど我が儘を突き通す、俺だってまだ子供、だから。 目の前の未発達な少年啓人が難しそうに且つ申し訳なさそうに笑う、愛想笑いともとれる、手を頭の後ろで組んで啓人に言ってみた言葉はそのまま流されようとしていた。 すぐに啓人の眉間によるシワ目掛けて指でつつけば驚いたように目を見開く啓人を笑ってやる。
「んな困った顔すんなって、な」
「でも、ぼくにはできません、太一さんにタメ口なんて…」
「俺がいってんのに?」
「なおさらですよ」
こういうやつって学校に絶対いるよな、わかるわかる、小さく笑ってそいつの頭を荒々しくなでてやる、大輔のような可愛い後輩、というわけでなく、違う感情で慕ってしまう可愛いやつ、って感じ。 からかい甲斐がある?、とも違う、この感情は多分異性に寄せるものと全く同じとみた。 ここにいるだけのあいだなら、子供でいられる少しのあいだなら、無知を装えば同性でもいいんだとじわじわこいつに教え込んでいく、それも面白いかもしれない、策士?ばっかいえーなんでも知ってる良い先輩の間違いだろ? ちょっとこいつに、同性恋愛というものを教えればいいだけ。
それをするにはまず敬語から、なんて。 あーもうわかってるよ俺の我が儘、っていいたいんだろ、はいはい。
「啓人」
「なんですか?」
「そうじゃなくて、大輔や拓也みてえに、俺にもさ、なあに、って聞いてくれよ」
「太一さん、可愛子ぶっても…」
「ちげえって!啓人の真似だぞ」
「そんな…」
自分は普段ああなのか有り得ない、とでも言いたげな瞳で落ち込む啓人をまたなでてやる、慰めなんて…、ぼそっと聞こえた声もまた可愛い、まぁこれは慰めなんかじゃない、俺がやりたいからやっているだけであって啓人のメリットなんざ考えちゃいないさ。 俺だけがこいつの頭を撫でられる、これはまぁ尊敬される側としての特権かねぇ。
ぶーたれているであろう啓人のほっぺをつまんでやればおおのびるのびる、噂では聞いていたけどやらかいのは本当だ。 笑えよ、じゃねえと敬語禁止にするぞ、そう言えばそんなの無理ですとまた意地になって言う、そこにすかさず、敬語使ったら口きかねえ刑にするぞ、と冗談で言ってやれば啓人は言葉を失った、あー面白い。 逆に、俺だけに敬語だったらそれはそれで特別のようで嬉しいんだが、どうも尊敬する相手や自分より年上相手だと癖なのか敬語になる啓人が嫌なんだ。よそよそしいだろ?仲間なのに。 まぁ俺の気持ちはそれ以前の問題だけどよ。
「徐々に徐々に、敬語なくしてけよ」
「わかり…わかったよ」
にへら、っと気の抜けたように笑う啓人の笑顔に今日も俺は骨抜き。
特別がほしい。 (俺だけができることを) (たくさん増やしたい) (啓人にとっての) (特別でありたいんだ)
130529 アンケから。ありがとうございました。
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