「おれとお前じゃ体格差が違う」

「うん」

「おれのがでけぇし」

「わかるよ」

「おれのが力もある」

「そうだねぇ」

「それなのに、だ」

「ん?」



 啓人の手はおれより大きくて啓人の接し方はおれより大人びていて同じ年齢なのに啓人の方がお兄さんみたいなんだ。
 口を閉ざしたおれは啓人の不思議そうな顔をただ見つめた、こんなちっぽけなことで悔しがるなんて、相当器がちいせえんだなって思うけど、それでもおれに憧れていたこいつがおれより優れているのがなんだか嫌だ。
 タケルを思わせるんだ、いや、まぁよく知らないけど。

 なんでもねぇ、そういうと、変なの、と笑う啓人、普通だったらっつーかこいつの友達の話じゃ暫くは気になって問いただしてくるみたいだけど、それはおれにはしてこないんだ、こいつおれのことなめてんじゃねーかなってたまに思う。

 口を尖らせて啓人との会話を数分やめた、どうも言葉がうまく出てこない。
 デジタルワールドは相変わらず天と地の差があるところばかりだが、今いる場所は相当綺麗でブイモンもギルモンも楽しそうにはしゃぎまわってる中、木漏れ日に照らされたおれと啓人は使命である調査なんて放って休んでいる、というのかこれは。



「むかつく」

「なんだよそれ」

「お前むかつく」

「大輔くんもね」

「っかー!可愛くねえ!」

「可愛くなくていいし!」



 男なんだから!
 そうだけど、おれよりちいせえしおれよりやらけーしおれより頼りない(はず)、だから女、という錯覚より幼子っていう感覚のが芽生えやすいこいつは今も頬を膨らまして怒っている。
 その行動がいけないんだって気づかないんだろうなー、本当むかつく。

 お互いのパートナーがはしゃいで散らした花びらは舞いどこかへ行くものもあればおれたちの会話に割って入って鼻をくすぐって来たりもする、ぶえっくしょい!、みっともないくしゃみをすれば吹き出すように笑う啓人のほっぺたを思いっきりつねってやった。

 いひゃい!やめろよー!なんて抵抗する、その手はほそっこい、その力は内容なもの、だけど手のひらだけはおれよりでかい。
 むかつく。
 うるせー!なんていってやめてやろうと思った手に力も入った、おれはこいつのどこが気に入らないんだろう。



「お前は今日からおれの子分な!」

「はぁ!?意味わかんないよ!ほっぺた痛いし!」

「意味はある!おれより弱くなれ!」



 その時思い切り睨まれて思い切り叩かれた、力こそそれなりに無いもののおれよりでかい手のひらからの衝撃はでかい、百倍返しされたような痛さだ。
 それと同時にデジモンたちも慌て始める、大きく音を上げた平手はパートナーを困惑させるなんて十分、仕舞いにゃ仲間割れとも取られるだろう。



「なんでそんな不機嫌なのさっ」

「…お前、なんでそんな手がでけえんだよ!」



 男なら憧れる、手がでかいってのは、父親のようで、憧れる。
 啓人の言葉につい本音が出てしまう、いいじゃねえかどうせまだ子供だよ!

 しかし啓人は、そんなこと?とでも言いたいのか、さっきまで釣り上がっていた眉も瞳もいつもと変わらない表情に戻りきょとんとしていて、心の底から気に入らない、ああそうだよ子供みてえなやきもちだよ、笑いたきゃ笑えよ。

 不貞腐れて相手から体ごと背けてみると、柔らかい笑い声が聞こえた、くすくす、っていう感じ。
 ふん、と鼻で抵抗すると啓人がおれの頭を撫で始める、それにまたむかついて顔を見上げると、啓人は切なそうに笑っていた。



「いいじゃないか、僕はこんなだから、大輔くんのいろんなところが羨ましいよ」

「たか…」

「君みたいにもっと男らしくなりたいな」



 その言葉が凄く、寂しいものだとわかるのは、太一さん達と合流してからだった。





もう十分すぎるよ。
(おれなんかよりずっと、)
(ずっと男らしいっての)





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