「どこいくの?」
「トイレ」
「ウソ、ヒバリんとこでしょ」
「あのな〜…」
今日はやたらとひっつき虫なジルに流石の俺もため息が出る、いつもは俺からしつこく行くからかこういうのには慣れないともいうのだが、ちょっと想像した彼女からの大胆な行動とは違う、ここまでくると鬱陶しく、可愛いとも思うけれどどこかが違うのだ。 ジルの行動は俺の求めた積極的なものではなくちょっと怖い感じ、今日はどうしたのかと周りに聞きに行くことすらできない。
トイレに行きたくて仕方がない俺に嘘だ嘘だと連呼するこの子を誰かどうにかしてくれ、深い溜息が出たとき、扉の方から一人の人物に声が聞こえた。ロゼだ。 タツミ、任務だ、急げ。 俺のもとにあるはずの通信機は今彼女の手の中で俺に通信が届くことはなかった、だからなのかあのロゼがわざわざ迎えに来てくれたのだ。 兄さん、そう呟いて暫くジルからあまり見せてくれることのない満面の笑がそこにあり、俺に向かってこういうんだ。 ぼくも行く。 にこにこと怖いぐらいの笑顔、普段のジルじゃ本当に有り得ないんだ、俺に対してだけだけど。
「お前どうしたよ、今日一日」
「…別に?」
「正直言うとさ、面倒だぞ」
「うるさいな、いいからつれてけよ」
「あーはいはい」
滅多にないジルからのスキンシップが今日は素晴らしいくらいに堪能できる、若干痛いぐらいだけれどつながれた手はきっと任務先まで離されることはないだろう。 部屋を出てロゼと対面、すれば普段から表情の変えないおとなしいこいつがある反応をした、俺の隣で俺にべったりくっつくジルを見て目を見開いたのだ。兄をここまでさせるって本当にこいつはどうしたのだろうか。 思うにあの姉にまた入れ知恵でも吹き込まれたのだろう、だがそれを口にしてしまえばジルとの幸せな密着は消える、俺はこいつに触れていられる時間が本当にない厳しいぐらいに触れられないアレもなければアレもお預け状態だ。
「重いな」
「ああ?ぼくの愛が重いって?」
「…本当どうした?」
「だから別に…」
「嘘だろそれ、何があった、言えよ」
ロゼを先に追いやってエレベーター前の自販機に二人で話す、次のエレベーターが来るまでざっと五分はあるだろう、最近調子悪いみたいだしな。 さらりとジルの髪をすくってやれば俯き加減でぼそりと呟いた。 昔の雑誌に、 そこまで聞こえてあとは何も聞こえず、俺が首をかしげてみるとジルが顔を上げて俺を見つめ返す、昔の雑誌に載ってたんだ、弱々しく呟くジルの瞳は若干潤んでいてときめいた。 何が? 欲望を抑えできるだけ優しく問いかけると普段のジルからじゃ到底想像できない可愛らしい女の子の反応に俺の中の何かが疼く、やめろ任務前に…!
「倦怠期、っていうのがあって、それに今のぼくらの状況みたいなのがあって、だから、もっとぼくからタツミさんを必要としてみたんだ…ごめん、嫌いになったよね」
いつもは本当に素直じゃなくてこんなこと言わない子なのにどうしてか今日はすごく素直で、というより何かに怯えている感じ、戦場だと性格変わるこいつも普段の冷たいこいつも大切だけれど、こうたまに見せる弱い部分に俺はどうしようもない愛しさを感じるんだ、どんなに強く出たって一人の女の子なんだと、俺という彼氏に嫌われないよう影では必死なのだと、そういうのが見えた気がして無性に嬉しくなる。 震える少女の肩をそっと引き寄せて抱きしめると驚いたのか少しもがくジルに、静かにしろ、と言えば大人しく俺の背に手を回した。 任務で人の少ない昼下がり、少しの間だけこいつの愛を噛み締めていたい。 俺はどうしようもないくらい依存してるのに、何一つ伝わらないなんて不思議なぐらいだ。
「嫌いになるわけねえだろ、ありがとな」
「…ばか、離せよ」
すぐに赤くなる、嗚呼愛おしい。
愛の伝え方を知らない子。 (さ、行こうぜ) (…うん) (今日は帰ったらさ、一緒に寝るか) (変なことしない?) (任せろ、お前の嫌がることはしない) (なら、いいよ)
ただ抱きしめたい、それだけだ。
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