「いつも一歩先を行く」

「気に入らないか?」

「そうだね、気に入らない」


タツミさんのそういうところ大嫌い、いつもぼくを置いて先に行く、そんなタツミさんが嫌い、こんなにも追いつこうとしてるのにやっぱり所詮ぼくは女であってどんなに服装や言葉遣いを変えたところで男というものには慣れない、体つきも声も腕力も何もかも男性には負ける、こんな世の中だとしても、世の中と言える世界だとしても戦わざるを得ないけれど、それでもぼくは女で彼は男だ、ずっとそばにいたいのに彼は男だからいられないのだ。不便で面倒な性別というものをかき消してやりたいほどに。
ヒバリと軽く会話をしてタツミさんは笑顔でアナグラを出て行った、また置いてかれた。ついていっていい?それが言えなくて変な言葉をかけてしまう、周りからは素直じゃないと言われるけれど素直ってなんなのだろうか、咎める人などいやしない世界に、素直になれなどと、無理な話だよ。
変な顔してんな、ソーマが後ろから現れては一言そう呟いた、うるさい、そう返事をすれば鼻で笑われる。
あんな奴のどこがいいんだか、安心感のあるソファーに腰を下ろして任務が入るのを待っている様子、あんな奴というのは勿論タツミさんのことで、どこがいいかと聞かれてぼくはどこもよくないと答えるいつもの会話、だけれど周りからじゃそれがどうも恋愛感情に見えて仕方ないそうだ、ふざけるな、ぼくはあんな奴大嫌いだ、それにあいつには、


「ソーマさん、ジルさん、任務ですよ」


想い人がいるのだから。
今いくよ、笑顔で返せば笑顔が帰ってくる、よくやるな、ソーマに言われて乾いた笑が溢れた、自分でもそう思うよ、なれた幼馴染との会話もどこか冷めているように見えてそうではない、これがぼくらの日常なんだ。



さっさと向かおうと準備を整えた頃、違う任務にいったはずの彼の声がアナグラ内に響き渡った、からからした笑い声、ああ頭が痛くなる。
ようジル!、能天気な人、そう感じ取れる話し方に苛立ちを覚えつつもおかえり、と言えば笑顔でただいま、と返してくれて、ぼくの心は暖かくなる、バカバカしい、なんてバカバカしいんだ。
今から任務か?支給された飲み物を口に含みながら話すタツミさんにイエスを送れば俺も行こうかな、の一言。
ぼと、手元の薬が落ちた。


「そんな驚くなよ、今の任務が楽すぎてさ」

「ああそういうね、うん、くれば、うん」

「何期待してんだよ」

「うるさいな、してないよ」

「いやしろよそこは」


そういえるタツミさんは本当どこまでもぼくとは違う、大人の余裕?たった五歳違うだけで、クソ、気分が悪い。
誰にでも言ってるのとは違うその言葉は不覚にもぼく自身を喜ばせる、ヒバリが近くにいるのに、でも彼女はタツミさんにそういう感情がないことぐらい知ってる、ぼくのいっこ下の可愛い女の子、そりゃ好きにもなるよ、ぼくもきっとなるだろう、女としてもこんなに好きなのだから。
ああ、嗚呼どうして嬉しいんだろう、なんてわかってる。タツミさんの言葉に惑わされるのは初めてじゃない、ムカつく、ぼくの想いとタツミさんの思いの違いにも腹が立つ。時々わざとじゃないかって程度には。


「本当ムカつく」

「どうも」

「ふん」

「ったく、可愛いねえ」


こんな大人にはなりたくないものだね。





違い。
(ばーか、本当うざい)
(はいはい、ほれ行くぞ)
(ぼくソーマ待ってんの)
(んなのいいから二人で、な)
(…最低)
(そこが好きなんだろ?)
(マジいっぺん喰われてきてうざい)
(素直じゃねえなあ本当)




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