今日は朝から合同体育があります、いつもと違う朝を迎えて、布団から起き上がり周りを見渡せば一夜にして用意された私の荷物が目にとまった、それを確認したあと夢じゃなかったことがわかって嬉しいような悲しいような複雑な気持ち、とにかく朝一の合同体育と彼の朝練のために拓人さんを起こそうと自分よりスベスベな彼の肌、彼の頬に手を滑らせてみると、拓人さんは私の一声で綺麗な笑顔で起きてくれました。
私に抱きつくように、肩に頭を乗せてきて、なんて、酷い人なの。優しさが痛い。










学校について、下駄箱で婚約者とアイコンタクトを交わした、とても嬉しそうな笑顔の拓人さんのそれが、本当かだなんて信じられない、なんて言ったら、彼はなんていうでしょうか。
なんてことないでしょう、彼だって私を信用していないのですから。

浮かない表情で教室につけば水鳥ちゃんがいて、一番の友達である所謂親友の彼女が満面の笑みでおはようと言ってくれれば私の悩みも飛んでいく、おはようと返していつもと同じホームルームを終わらせます。

いよいよ合同体育の時間です、一限、二限を使った体育は球技大会に近いもので、偶数クラス奇数クラスの戦い、勿論私はこの時間を楽しみにしておりました、ついこの間まで、だって拓人さんと同じチームなんですもの。
いそいそと女子更衣室へ向かうところ、最近見知った女の子がこちらに向かってきます。
水鳥ちゃんと同じサッカー部マネージャーの、山菜さん。
一週間拓人さんを見て分かりました、私は、このお方が苦手なのです、きっと彼女も私を知っているでしょう、だって彼女も、拓人さんを好いておられるから。
居づらい廊下から一人でも逃げてしまいたいが、水鳥ちゃんをおいていくわけにはいかない、私は二人の楽しそうな会話を聞いて微笑むだけなのです。
すると不思議な話し、今日は一年生も一緒に体育をするそうです、理由は一年生の体育教科担任が突然入院したんだとか。
なんてタイミング、これで私も少し救われます、クラスが増えれば拓人さんを見つめていてもバレないですしね。

私たちは急いで着替えて広い校庭に向かう、そこには既に人が集まっていて、軽く体育祭をも思わせてしまうわ。



「紫苑さーん!」

「あ、輝くん」



彼の叔父にはお世話になった私たち、仲良くなった輝くんが嬉しそうにこちらへ走ってくるではないか、そうだわ彼もサッカー部、その響きだけで嬉しくなります。
他愛ない話をしていると、突然輝くんが瞳を輝かせ始めた。
私がどうかしたのかと問いかければ、最近幸せそうですね!いいことあったんですか?なんて変なところで勘のきくこの子が怖い、でもそうね、この子になら言ってもいいのかもしれない、と、私は笑顔で話をした。
どうせまだ先生もいないことですし、これぐらいの不良行為、校則違反にならないでしょう?
木漏れ日に二人ならんで腰掛ければ私はぽつり、言葉をこぼす。



「輝くん、あのね、私、好きな人ができたの」

「え!?どんな人なんですか!?」



嬉しそうに、だけど驚いた顔で、可愛い後輩の輝くんが言う。
そんなこの子の行動に自分もなんだか嬉しくなって、少しずつ言葉を漏らす。
そうね、好きな人はとても綺麗で芯がしっかりとした人できっと曲がったことなんて嫌いなんだわ、だけど常識はあって甘くて優しくて彼がいるだけで私はそれらも好きになるの、彼自身が大好きなの。
でもね、どうしてかはわからないわ、何故なのかしら、彼っていうだけでいいの、私はね、その人がとっても好き。

きっと満面の笑みだったのだろう、輝くんが応えるような笑顔で、それでいてほっぺたは真っ赤なの、それが凄く可愛くてつい、頭を撫でてしまいます。

でもね、言ったことに間違いはないでしょうけれど、でも、それは彼の上辺で、私が好きな彼は彼自身が塗り固めた偽物なのかもしれないのです。
舐めれば口の中で溶ける綿菓子が最後に苦味のみを残すような、そうね、表面上だけの甘味なのね、嗚呼、話していて気づいてしまいました。

風が吹き木が揺れ動き、木漏れ日が形を変えた頃、遠くで先生の収集をかける声が聞こえます、行きましょう、この話はここまでです、そう言えば嬉しそうに手を取ってくれる輝くんにまた笑う。
同じチームの彼がいれば、怖いものがない気がしたけれど、

一瞬、目のあった拓人さんの瞳には光がないように見え、怖くて目を逸らす。
きっとあれは睨んだような、厳しい瞳。
ごめんなさい拓人さん、ごめんなさい、

そうね、道具のような私がこんなこと、ごめんなさい。



「輝くん、私の好きな人はね、簡単に言ってしまえば」





と柔らかく優しい、だけど苦味も残る、そう、最初が



甘いだけのワタアメ(わたがし)みたいな人。



(神童、何を見ているんだ)
(お、影山じゃん)
(なんか可愛い子といるね〜姉弟とか?)
(でもそんな話し聞いてませんよー)

(やはり俺に、嫉妬をしないなんて無理なのか?)

(それじゃあね輝くん、また後で)
(はい!紫苑さん!)

ちらりと拓人さんを見やればもうすっかり笑顔でご友人の方々と話しておりました。
よかった、何かの気のせいなんですね。
ええそうです、私なんかのために嫉妬だなんて、ないに決まってますもの。






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