苛々、苛々。


「ちょっとジタンみっともないよ、苦しいし、離れてくれないかな」


目の前にいるちびすけがオレに物申す、こちとら苛々してるっつぅのに、こいつは平然としていてなんだか釈然としない。
いつだってオレといることを拒むんだ、こういう時も一定の距離を保とうとして、やるせない恋心が爆発してしまいそう、だけどそれは仕方のないことなのかもしれない、そうだこいつはオレの抱いている恋心なんて知らないし。
ただただ可愛らしい弟のように扱っているんだろうと呆れ返っていることだ、ウォーリアに言われて今日は同じ班であるちびすけことオニオンナイトはオレの腕に抱かれながら深い深いため息をついた。


「苦しいってば…てか、熱い、邪魔、本当にやめてよね」

「かっわいくねえな」

「それは結構なことで」


そいつの兜を取り上げて逆だっている髪をぐしゃぐしゃに乱してやると抵抗するかと思いきや、子供だな、なんてつぶやかれておしまいだ、とんだ赤っ恥だ。
オレのこのやるせないだけの想いはきっと永遠に伝えてはならないんだとわかってはいるんだけど、いつかこれが報われる時代がくるんじゃないかって、考えてしまうんだよ。
もしこいつが女の子でオレが男だったらそれはもう涙が出るほど嬉しいハッピーエンド、レディ大好きなオレがこんなちびすけに恋をしたなんてバッツにすら言えないぜ、きっと笑われて言いふらされるに決まってる。
はぁ。
今度はオレが深い溜息をついてしまう、一瞬オニオンの肩がびくりとはねたのが視界に入った。
そんなに怖がられるような声じゃないし質じゃないオレのため息に体をびくつかせるなんてよっぽど珍しいと思ったか普段あまりにも聞かないからなのかはわからないけれど、ちょっと、いや大分気分的にはよろしくない。


「どした」

「…別に、珍しいね」

「そうか?いつもこんな感じじゃないか?」

「そうかな」


素っ気ないそれはオレと深い交流がないから?切ないねぇ、男に恋するジタン様はなんて切なくて気持ち悪いんだろう。
あーもう嫌だ、とも思える。
疲れた、というのは合流するための旅路にか、それとも今のこの会話か、わからない。

どかり、と、オニオンの数歩後ろで腰を下ろした、そんな俺を見下すようにありえないとでも言いたげな表情で見てくるそのちびすけに申し訳ないとしか思えない、若干怖い、こいつ本当に俺より年下か?
やれやれ、と俺のそばまでわざわざ歩み寄ってくれるちびすけはなんて優しいんだろう。


「どうしたの、はジタンに必要だね」

「どうしたと思う?」

「さぁね」


優しい風がオレたちの間をすり抜ければ心地よい、とは感じられない沈黙が流れた。
普段そんなに会話なんてしないのに、オレに合わせてくれるのは本当に優しい子だからなんだろうな、子供っぽいってのもあるけど。





「好きだなぁ」





ぽろりと出てきた言葉に、ハッとした。
しまった、とは違う、顔がとても熱くなって相手の顔色を伺うことすら嫌だ。
心臓はうるさく、風の音も不必要な不協和音も聞こえない、ただひたすらにどくどく唸る鼓動に耳を傾けることしかできなくて、脳内は勿論パニックだ。
こんなにも演技が下手になってしまったのかな、なんて考えている場合じゃない。
嗚呼、ここから消えてしまいたい!

なんとなく想像できるちびすけの返答は、きっと気持ち悪い、だろう。
オレとしたことが…、一瞬の隙がさらけ出した本音に心が締め付けられる、これからこいつと一緒に行動ができる、なんてことがなくなるんだろうな、悲しいね。
咄嗟の言い訳すら出てこない。





「知ってるけど」





耳にすんなり入ってきた言葉は勿論ちびすけのもので、オレの目はまん丸に見開いたことだろう。
勿論真っ先にお越した行動は自分の耳を疑うことだ、どんな幻想を抱けばそんな言葉が耳に入ってくるのやら、しかしすぐそばでちびすけはくすくす笑っている、なぁんだからかっていただけか。
いやそれはそれで凄く切ないです。


「やだなぁジタン、僕が、好きなんでしょ?」

「え、あ、その、別に、オレは」

「はいはいありがと、だったら早く戻るよ、さっさと立ち上がって」

「は?」

「僕らのこと祝福してくれる仲間がいるでしょ」


本当にこの世界はなんでもありなんだな。





あっけらかん。
(なんであんなに悩んじまったんだろ)
(おつむが弱いからでしょ)



そこもいいとこだけどね。




130529
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