「だぁいじょうぶオレ小鳥のそぉいうとこがだいっきらぁいだからさぁ」



二面性で有名の彼に私より成長の遅い彼に言われた言葉はとても、心に突き刺さった。





ノワールに染まった猫は白かった。





真っ黒で真っ黒で、洗ったって落ちやしない磨いたってひかりゃしない、どこまでも続く黒に沈んで諦めてめんどうになってどうでもよくなって、それで最後には結局後悔して挫けて泣いての繰り返し。
それでも楽しそうに笑顔で猫のような気まぐれ野郎狩屋マサキは言ってくるのだ、毎日飽きずに同じ言葉を今日もさも当たり前のように呟くでもなく陰口でもなく目の前で目を合わせて逃がしてくれない瞳と掴まれる腕に吸い込まれて、だいじょうぶ、だいっきらい、と、ニコニコと、じゃなくて、ニヤニヤと、言ってくるのだ。

そっくりそのまま返してやろうじゃないか、という気にもなれない、否、返せない、悔しさから小粒だった汁物が大粒の涙に変わって、今日もまたぼろぼろと泣いては笑われるのさ。
だけど彼はいう時間が決まっている、お互いの部活が終わってたまたま鉢合わせる正門、というもののどうも彼がわざとそれを言うためだけに合わせているようにも見えるのだけど、それでもその正真正銘の下校の時に、決まっていうのだ。



「また泣いた、なんでそんなに泣くの?」

「…」

「悔しくて?言い返せなくて?女として?大丈夫お前女に見えねえよ」

「っ」

「また泣いた、なんで泣くの、なんで泣く時まで声出さねえの、はっきりしたら?俺がお前を嫌いなように、お前も言えよ、俺が嫌いだって」



にやにや、そう、にやにや、だけどどこか寂しそうに、嫌いだって言え、泣いてる時ぐらい声を出せ、入学して彼が転入して隣の席にたまたまなってそこから毎日執拗に構ってくるこいつ、正直最初は嬉しくて私も沢山笑顔を見せた、沢山お手紙を書いた、感謝してるの、こんな自分と遊んでくれる彼に。

自分は管弦楽部、彼はサッカー部、極端であるそれに時折悲しくもなる。
でも彼はいつも決まったことのようにくるからそれでいいのだ、どんなに発言が自分の心を抉っても、彼がまだこうしていてくれること、少なからずなんて言えない、多いに感謝しているもの。

だけど、



「っ、…っ!…、…」

「ほらね、おれ、おまえのさぁ、そういうとこがさぁ…」



ありがとうが言えなくて、私の行動に涙を流した猫のような気まぐれ野郎狩屋マサキに感謝の手紙だなんて、こんなの彼じゃなくても嬉しいわけがない。





生まれつきノワールだった白猫とそんな白猫に恋をしたブランな黒猫の黒くて白い交わらない恋。





彼は声を聞きたがっている、それを知らなかった私はつい最近おしゃべりである松風くんに聞いてしまったので、勿論手話のできる松風くんだから聞くことができたのだ。
すると嫌われっ子の私は何も話さないいつも笑顔だけのアクションでそれに苛立ちむかついた彼がいつもと違うちょっかいを出し始めて、ずっとわかってくれる人を図々しいながらも探していた私は勿論絶望だった、最初は、最初はね。

だけどきっと私は彼が好きだからそれでもこうして一緒にいられることが嬉しいのだと思う、声がでないことは生まれつきだったけれど、通院を始めてからはもう三年になるのだろうか。
普通だと思っていたことが普通じゃなかったから余計怖かったけれど、声帯だってないわけじゃなく、絶対治るっていう保証も実はある、それでも悲しくて、泣いたのに泣き叫んだ気でいたのに、声は出ていないのだ。



「しゃべってみろよ…嫌いならさ…なんでなんにも言わないんだよ…なんなんだよぉ…」

「…っ、」



慰めたくても声が出ない、嫌いじゃないと言いたくても言えない、不便だと思ったことのない日を恨めしいともう程今この時が悔しい。

そういうとこ、だいじょうぶ、だいっきらいさ、また呟いた狩屋マサキ、また涙を流す私、お互いの気持ちは交差して交わることなんてない。

悔しい、寂しい、悲しい、抱きしめて今すぐにでも大きい声で言いたいの、狩屋マサキ、あなたが大好きですって。その縮こまる姿に駆け寄って抱きしめてあげたいの、大人びたがる中学一年生と少し先を進んだ中学一年生のこの違いはきっと性別で、今日もお互い四苦八苦するしかないのね。





ノワールにブランで浮かび上がった愛おしいという文字に、黒猫は驚いて白猫に求愛をした。





「ま、さ…」

「…っ小鳥…」

「す…き、」

「っ…うんっ…」



あうあうとしてみっともない声でも、彼は笑顔で受け取ってくれたの。





ノワールに染まったのは黒猫だった。





白猫さんと黒猫さんの事情。
(ごめん…ごめんっ)
(す、き、すき、)
(おれも、おれも小鳥が好きだ…っ)

子供らしいぎこちない口付けは凄く凄く、甘酸っぱかった。




12/10/16
- ナノ -