目を覚ましたらそこはとても色鮮やかなところだった。
 四方八方に目を向ければあちこちで面白いことが起きていて笑ってしまいたいのに笑えない、ここはどこなんだ。


「ここはアナザーワールドだよ」
「ようこそ晴矢、君は選ばれた」
「ヒロトに風介?なんでそんなピエロみたいな格好して…選ばれたってなんだよ」
「さぁ進んでご覧!」
「ここは一生叶わない夢を叶えることが出来る世界だ!」
「は?」


 目の前に現れた親友は何とも奇術かしい服装でヒロトの右目に黄色く星のペイントが、風介は反対の左目に青く雫のペイントまで施されていて、行き過ぎたピエロだ。

 一生叶わない夢を叶えることが出来る世界、だと?
 なんで俺なんだとか、どうしてお前等が案内人なのかとか、きっとこれは夢なんだとか思ったけど、人間とは本当に良くできた生き物だぜ。

 したつもりはないのに心の奥底で喜んだ感情はここでは隠せないらしく、にたりと俺の口角が厭らしく動いた。

 さぁさぁと導かれるまま連れて行かれた先はなんとも奇妙で、頭が破壊されてしまうぐらいうるさく、だけど俺の理想が確かにそこにあったんだ。


「ここは君が望めば望む程君の理想に出来上がる」
「言うなればもう一つの貴様の存在できる世界、アナザーワールド」
「へぇ…」
「ここでの理想は現実では絶対に叶わない」
「ここでしか叶わない」
「ふぅん」


 面白い。

 どちらに住むか、決めるのは俺だと、二人が対照的なポーズをとって冷めた目をしたまま言い放った。

 全く可笑しな話だぜ、俺がリアルを忘れて現実逃避をしちまうとはな。

 くっくっと笑ったあと、理想で出来上がった地面を有り得ない音を立てて走り去った。
ぐしゃり、ポーン、しゃんしゃん、地面が発する音じゃないそれを聞きながらひたすら走る。

 ここじゃあ俺が神なんだ!
 お日さま園の奴らや円堂たちみんなが俺を崇めるんだぜ、最高だ。

 しかし俺は直ぐに絶望に突き落とされた。

 特別綺麗な場所にたどり着くと、そこには俺の想い人の春野がいたんだ。


「晴矢!」
「春野、お前なんで名前で…!」
「やだなー晴矢ってば、いつもみたいに名前で呼んでよ」
「え、あ、小鳥?」
「ふふ、晴矢大好き!」


 ここでしか、叶わない。

 俺は知ってる、春野はヒロトが好きだって。
 はは、だからリアルじゃ絶対に叶わないってか。

 春野のいる場所はまるでアフロディーテを想わせるほど神々しく綺麗な場所だ、俺の視界に入る全てが綺麗、だが。

 俺の視界に映らねえ背中から後ろはガラガラと音を立て真っ暗になった、そして振り向かない俺の後ろの真っ暗闇から親友二人の声が聞こえる。


「今ならまだ戻れるよ」
「そいつを突き放して私たちのもとに戻り再びつまらないリアルを送るか」
「彼女の手をとってオレ達を突き放して理想の世界に一生住まうか」
「さぁ決めろ」
「さぁ決めて」
「選択は今しかない」
「ラストチャンスだ」
「「さぁ!!!」」


 馬鹿やろう、そんなの決まってんだろ。





アナザーワールド。
(…ご臨終です)
(っ、晴矢!)
(貴様!何事故にあっている!)
(南雲…帰ってきてよっ)
(春野…)
(私南雲に好きって言ってないんだからぁ!)


嗚呼、何て幸せなんだ。
アナザーワールドって奴は。





120206移動日
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