02.二日目。





「え、お昼?」

「ああ」

「構わないけど、あっちはいいの?」

「問題ない」


朝、きっちりした時間に迎えにきてくれた期限付き彼氏の風介はお昼になって一緒に食事をしようと言うのだ、お弁当形式のうちの学校でそういったものは大いに自由だが、ただいつも身内としかいないような人に突然一緒にお昼を食べようと言われて驚かない方がどうかしている。
しばしきょとんと風介を見るが、そんな目線もお構いなしに無効にいる基山くんや南雲くんにちょっとした挨拶をしたあとがたがたと私の目の前の机を動かしてくっつけた。
そこに広げられた風介のお弁当はヘルシーなイメージを覆すようにこってりしている、まぁサッカーしている人だしこれだけのスタミナ弁当は当たり前か、と先ほどのことなどすっかり忘れて自分のお弁当も広げた。


「可愛らしいな、女子って感じがする」

「失礼だなー、でも上辺で女子ってだけだよ、これ殆ど残り物と冷凍食品だし」

「ふむ、私と一緒だね」

「ふふ、お揃い」

「だな」


なんでもない何気な会話、甘いともとれるそれは本当の恋人同士のようだと錯覚もする。
それでもこのひと時に幸せを感じている自分はまた欲張ってこの関係が続きますようにと願うのだ。
好きになってもらうには、自分を隠してはいけないと決めて二日目、今にもくじけそうだということは秘密!

教室でのお昼は相当人が少なく、気持ちのいい風が通るのを合図にご飯は食べ終わり人気の少ない教室で二人して中身のない会話を交わす。
上の空にも似たそれは食後の眠気や安心感からだろうか、脳内に入ってこないのにそれでも午前中の授業の話とかをするのだ。


「そうだ、思い出した」

「ん?」

「これを君にあげようと思ってね」

「なにこれ」

「サッカーボールのキーホルダー、私とお揃いで買ったんだ、気が向いたらつけてくれ」

「あはは、風介らしい、ありがと」


突然の言葉にプレゼント、リラックスしすぎていたことから思いのほかそれに驚いてついそのキーホルダーを抱きしめるように握り締めた。
たったこれだけのことが嬉しくて。

お礼に何かするよ、何がいい?
そう聞けば、君が元気ならそれでいいよ、というのだ。

そこで考えてしまうのが、このキーホルダーは罰ゲームに付き合ったお礼でくれたものなんじゃないかということだ。
そこまで律儀だとは思えないから深く考えたくはないが、それでも唐突すぎるこれにちょっとばかし不安にもなる。
やはり眼中にもないんじゃないかって、早めのプレゼントで諦めてもらおうとしているんじゃないかって。
あーもーばっかみたい。

そのキーホルダーを、いつも自分が持ち歩く携帯電話につけて、かざすようにして見ては笑った。
絶対に好きになってもらう、そう誓って。








キーンコーンカーンコーン。
学校内お馴染みの鐘の音が鳴り響いて漸く下校時刻。
帰宅部はすぐにかえり登板はその場に残り部活動員は自分の部活へと足を運んでいく、そんななか掃除当番である私は一人教室の黒板をきれいにしていた。
上の方に届かない黒板消しに苛立ちながら粉一つないように綺麗にしていると、教室を出て行ったはずの風介がすぐ隣にいる。
驚いてうわぁ、と声をあげるとくすくす笑ったその顔がレアで魅入ってしまう。


「面白い顔」

「本当失礼だなー」

「悪かったね、ところで、もうひとりいるはずだが?掃除当番」

「ああ、帰ったよ、男子はこれだから…」

「女子ってすぐそう言うな」

「…ここで言い合いしてても意味ないよ」

「ま、確かに。…手伝ってやる、何をすればいい?」

「ふふ、上からとか。じゃあ窓ふき」


わかっていたけどらしいその口調に改めて笑っているとふてくされたように窓ふきをしてくれた風介、ごめんね悪口じゃないよ、といえばわかっているよ、とそっけないようでしっかりと返事をくれた。
いつも基山くんや南雲くんに見せていたその態度が自分にもあると思うと少しでも心を開いてくれているんじゃないかって自惚れる、そんなことでも嬉しいと思えるのだ。
自分ばかりが好きが増えているようで尺じゃない、だけど文句を言ったって相手の気持ちなど知らないのだから仕方がないのだ。

こうして手伝ってくれているのは彼氏だからなのかはわからないけれど、見た目や口調、クールなところがあったにしてもやっぱり優しい彼を、きっと私は嫌いになれないだろう。
図書室で出会ってからここまで、幾分か話すクラスメイトってだけで選ばれた私はきっと生まれてきたこの短い人生のなか一番の幸せだと思う。


「ね、風介」

「ん?」

「…明日、何しよっか」

「そうだね、私の部活が終わるまでベンチで見てるっていうのはどうだ?」

「それ、昨日もしたしきっと今日もするね」

「嫌か?」

「ううん、すごく好き」

「知ってる」


笑い合った私たちは窓の外の夕日に二人して手のひらをかざした。





二日目。
(明後日は部活がないから放課後デートというのをしてみよう)
(なにそれ恥ずかしいね)
(じゃあやめておくか?)
(行くに決まってるでしょ!)

先の予定ばかり決めてしまってはダメ!もう!




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