目の前には新しい道が
「…どうしたの」
チャイムが鳴り、玄関を開ければそこには青峰がいた。あれ?今日は確かウィターカップっていう大会じゃなかったっけ?
バスケに興味のない私は全く知らないが、さつきちゃんがそんなことをいっていた気がする。
彼、青峰大輝はバスケ部で、しかもエースらしい。つまり一番強くて点の取れる人。
だけど部活には大してでていないし、正直信じられなかった。彼の口からバスケの話を聞いたこともなかったから。
小学校の頃からずっと続けているものなのに、それを口にしないのは何か理由があると思ってたから聞いてないけれど。
「…青峰?」
様子がおかしいことに気づいて、私は眉間にしわを寄せた。いつもの彼ならなんの躊躇いもなく「会いたかったんだよ」とかサラリと言葉に述べるのに。
私は玄関から外にでて彼の前にたった。外はさすがに肌寒い。羽織るもの持ってくればよかったなぁ。
「…負けた」
「え?」
「俺、負けたんだ」
いつも勝ち気な彼からその言葉がでたとき、キョトンとしてしまった。青峰が誰かに負けるなんて、なぜかわからないけど想像できない。
でも負けたのがこれが初めてなわけないのに。なのに不思議と毒気が抜けたような、そんな顔をしていた。
「そっか。負けちゃったのか」
「…おう」
「相手強かったんだね」
「いや、俺の方が強い。今回はたまたまだろ」
そこは譲らないのか。
バスケのことを、私はまだよくわからない。バッシュのこととか、戦略とか、ネットをくぐる音の心地よさとか。
なにもわからないけど。
青峰が好きなものは好きになりたいって、ずっと思ってた。青峰がバスケを好きなこと、私は知っていた。
「でも次は絶対ェ負けねー」
やっと、私に好きなものがあるってお話ししてくれたね。何でも興味なさそうに話すくせに、バスケのことだけはいつも反応が違かったから聞かないでいたんだけど。
こんなにすてきな顔をして話すのなら、もっと早く聞けばよかったと後悔した。やっぱり彼は、心の底からバスケットが一番大好きだった。
これからは、バスケのことも勉強しよう。
「でもな、ちほ」
「ん?」
「ちと、気持ち余裕ないんだわ」
辛そうに、泣きそうな顔で笑っている彼に私は背伸びをしてぐっと自分の方へ引き寄せた。
背中を丸くした彼は、ちょっとつらいかもしれない。苦しいかも。
だけど私の背中に腕を回して、ぎゅっと強く強く抱きしめた。私の首もとに顔を埋める。
「お疲れさまでした。練習はいつからあるの?」
「…明後日」
「そっか、頑張らないとだね!」
「おう。だからデートさ…」
「いいよいいよ。私、青峰のバスケしてるとこ見たいって思ってたから」
見に来んな、といわれていたから言いつけを守って見に行かなかったけど。私の言葉に青峰がゆっくりと顔を上げる。
わかってるよ、私のことも大切にしてくれてるんだって。だから心配しなくても離れないから。大丈夫だから。
今度の試合は、見に来んな、なんて言わないよね?
「見に行った試合、負けてたらかっこわるいし。ちゃんと練習してよねー」
「っはは!何言ってんだよ、俺が負けるわけねーだろーが」
「わかんないよー?今日負けたんだから」
「…そうだな。きっとり練習して、リベンジしねーとな」
笑った彼の笑顔は晴れやかで今までみた中でも一番すてきだった。
その笑顔を作ったのが私じゃないのが悔しいけど、でも、見れたことがすごく嬉しい。
「ありがとな、ちほ」
彼の心の支えにこれからもなっていけたらなって、思います。
進みすぎて怖くなり、一度立ち止まってしまった彼だけど。これからは勇気を出してもっと奥まで進めるね。私も一緒についてくよ。
目の前には新しい道が
* * * *
火神んのにそっくりすぎる…さすが似たもの同士。
負けたとき、青峰バージョンでした。