君がいてくれて、よかった






「――…負け、た?」
「うん。桐皇ってところに負けちゃったんだって」


嘘だ、と最初に思った。
だってまだ大我から連絡が来てない。
いつも勝っても負けても連絡してくれるのに。練習中に先輩達に負けた時でさえも必ず。今日負けちまった、悔しい!って。

誠凛男子バスケ部はすごいチームだと思ってる。一度試合を見に行ったことがあるからわかるよ。
バスケのことはさっぱりで、切り替えも早くて何が起こってるかの全くわからないけど。でも、このチームは強いんだなって。
どの部活よりも遅く練習が終わるし、休日も無いに等しい。それぐらい練習に打ち込んだのに。頑張ってたのに。

それでも、勝てなかったの?


「――っ、ど、して…っ」
「え、ちょ、ちほ!?どうしたの?!」


だって。
だってだってだって。

あの時、大我は。



勝てるに決まってんだろ、俺たちなら!



そう言って、笑ったんだ。

1人で戦う相手に何か絶対負けない。負けたくない!って、そう言ったんだ。
全員で協力すれば、信頼があれば怖い物なんかないんだって。信じれば必ず叶うんだって。そう言ったんだ。

笑顔で。あんなに嬉しそうな笑顔で。

努力していた男バスの皆のことを考えると。あんなにあのチームを好いていて、頑張ってた大我を考えると。私が泣くのはおかしいと思うけど。
でも悔しくて悔しくて、涙が、止まらない。




「よぉ」

「――…え?」




インターホンが鳴ってドアが開けば、目の前には大我が立っていた。
試合終わりなのかジャージでエナメル。疲れているはずなのに、私の家に何をしに来たのだろう。

大我は、私が試合の結果を知っていることを誰かに聞いたのかな。それとも知らないのかな。何て声をかければいいのかわからない。


「どうしたの?」
「え、あー、まぁな」


玄関を閉めて、大我と向き合う。

…やっぱり、落ち込んでるな。

私に連絡くれなかったってことは、相当ショックだったんだろうな。きっと、今だってバスケのことをたくさん考えてる。

私が、支えてあげなきゃ。大我のこと応援してあげなきゃ。
めいいっぱい、お疲れさまって言って、頭撫でて、抱きしめてあげなきゃ。


その時、スッと私の顔に大我の大きな手が当てられた。
親指が私の目元をゆっくりとなぞる。




「泣いたって、聞いたからさ。心配で寄ってみた」

――…は?




「でも平気そうだな。よかった」
「な、に言ってんの…?」
「っは!?何で泣きだすんだよ!?」


泣きだすに決まってるじゃん。バカ。

だって、絶対試合で疲れてるじゃん。
ずっと出っぱなしだったんじゃないの?いつもの大会の後みたいに、足重いんじゃないの?負けて、辛いんじゃないの?

何で私の心配何かしてんの。
バカ。本当に、バカ。


「大我の、せいだよ!連絡くれないし、本当に心配したんだから…っ!」
「…ん。悪かった、ごめんな」


大我の手に手を当てて、私はぼろぼろと涙を流した。指で涙を拭ってくれる。

わかってるよ。私に連絡するくらい余裕がなくてショックだったってことくらい。
だからこそ、そんな優しいこと言われたら。

ますます大我のこと心配で、大好きになっちゃうよ。


「………なぁ、ちほ」


後頭部と腰に回された腕。
グッと、力強く引き寄せられて。
その大きな体に、閉じ込められて。

驚きすぎて、息をするのも忘れた。




「――…わり、ちょっと、胸貸して」




…私が貸してもらってるようなもんじゃん。

私の首筋に顔を埋め、少し震えている。
鼻の啜る音と、ジワジワと肩に染みる何かを感じた。


「勝ちたかったんだ。絶対に負けたくなんかなかった」
「……うん」


私はゆっくりと彼の背中に腕を回す。


「勝てると思ったんだ、あのチームでなら。絶対に」
「うん」
「次は、絶対ぇ、勝つ…っ!」


絶対絶対勝てるよ。

私は何もしてあげられないけど。
弱音とか愚痴ならたくさん聞いてあげられるから。

ねぇ大我。
弱いとこ、私に全部ちょうだい。












君がいてくれて、よかった
(1人じゃダメでも、2人でなら)


(っしゃああああああ!!!)
(大我ーやったぁー!!)
(ちほー!もう何つーか、やべぇよ!!)
(うん!やばかったね!)
(あーもー嬉しすぎる!何だコレ、何コレ!)
(嬉しいね!やったね、たい、ん、ん、〜〜〜っ!??)
(((落ち付け火神やめろ俺らの前で!!!)))




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