ライトブルーの小箱。









車に乗り二人で向かった打ち合わせ先。

世間は大型連休に入り、オフィス街は休みの会社が多いようだ。普段ならば渋滞で足止めをくらう道も、今日は空いており、予定より早く目的地に着いてしまった。
打ち合わせ先の近くにあるコインパーキングに車を停めた運転手のアスランは、ギアをパーキングに入れてエンジンを切る。途端に車内は沈黙に包まれた。

キラはちらりと運転席を見てから口を開く。

「……少し時間あるから吸っていいよ」

助手席に座った上司からの許可に、では、と。ことさらにまじめくさった表情でアスランが懐から出した小箱。普段、彼が愛煙している銘柄のものだ。

箱を軽く振るような仕草で一本取り出し、口に咥える。
手にした携帯灰皿の口を開け、空いた手でポケットに忍ばせていたライターを掴み、咥えたそれの先端に火をつけた。

同時に運転席側の窓を3センチほど開ける。

キラはその仕草一つひとつに目を奪われた。ただの、嗜好品を満喫するひとときだというのに。身の裡で同じ男としての矜持が刺激されるのを感じ、顔を背けた。
それでもこの密室で、携帯を触ること以外にすることなどない。

キラは運転席をそっと窺った。
アスランは終始真顔だったが、肺を満たした煙を吐き出す瞬間だけは、どこか心地良さそうだ。
なんて感想をキラが抱いたその時。

視線が交わった。

もちろん、キラとアスランの、である。
しばし、無言の攻防。その時、キラの脳裏に閃くものがあった。


(……いまなら、)


唇から離された瞬間を狙って、キラはまだ熱いそれを指先でつまみ、顔を近づける。そのまま数秒間見つめあい、淋しいと訴えるそこを塞いだ。

角度を変えて何度も触れる。
柔らかそうだと思っていたのに少しカサついていた。そんなものばかり吸っているからだ。

潤すようにぺろりと舐めれば、舌先に苦味と人工甘味料の甘さ。
まるでアスランのようだ。
完璧に見えて、いつもどこか甘い。


キラが満足して離れようとすると、それまでされるがままであったアスランがキラの後頭部を掴み、唇ごと噛みついた。
驚くキラの声も飲み込まれてくぐもる。

「―いきなり、何をするんです」

言いながらアスランは、すっかり短くなったそれをキラから取り上げて、手元の灰皿に押し込んだ。

「それ、僕の台詞!」

悔し紛れに訴えた言葉は、アスランから小さな笑みを引き出しただけだった。






END


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