君を思う狂気はこんなに愛しい







移動教室を挟んで、4時間目の授業も終わり、昼休み。
昼食を食べ終えてふと後方を見遣ると、数学のテキストを前にキラはまだ唸っていた。相当難しい問題なのだろうか、いつものように声を掛けてみるべきなのか悩んでいると、突如、キラは顔を上げて視線を合わせてくる。

とりあえず目が合ってしまったので笑ってひらりと手を振ると、げんなりとした顔をされた。

「キラ」
「何、用がないなら呼ばないで」
つれない態度だが、それはすでに慣れている。
声を掛けてしまったのなら、このチャンスを逃す俺ではない。

「次の数学、キラが当てられるだろ? ずっと苦戦しているようだから教えようかと思って」
「う……」
図星だったようで、視線を徐々にあらぬ方向へと向けるキラ。
小さく笑みをこぼして、彼の前に座る奴の椅子を借りた。
そうしてノートを覗き込むと、キラは少しだけ俺から距離をとる。あからさまだな、と思いつつ、顔には出さずにキラの書いた数式を目で追った。

「ああ、なんだ、ここまで出来ているならあと少しじゃないか」
俺はほぼ導き出されている解答に補足していく。
基礎はちゃんとできているのに、応用になると苦手なのか、コツさえつかめばできるのにな。そう思って俺はキラにアドバイスをする。

「これだったら図書室にわかりやすい解説があったからキラも見てみるといいよ」
こんなことを言うと、普段なら露骨にそんな本誰が読むのなどと言ってくるのに、一言も発しないキラ。
いぶかしんで、俺は解答を書き終えたところで問いかけた。

「キラ、聞いてるか?」
「!! き、聞いてる聞いてる…!」
少し驚いたような表情。
すぐに聞いてなかったな、ということに気がついた。
芽生えるいたずら心。思わず笑みをこぼした。

「そう、なら放課後に……」
「へ?」
意味深な言葉を残して席を立つと同時にチャイムが鳴る。
好都合だとキラの言葉を無視して、自分の席に戻った。

授業が始まり、例の教師が当然のごとく、キラを指名する。
よどみなく答えたキラを賞賛し、彼はほっと息を吐いて席に着いた。とこちらに顔を向けたので、軽く笑みを浮かべると舌打ちでもしそうな表情を向けられる。
さすがに答えている間中見ているのはまずかったか……。







「キラ」
「ははは、はい!」
「? 何をそんなに慌ててるんだ?」
「気のせいじゃないかな」
「そうか? まあ何ともないならいいけど……じゃあ行くか」
振り向かなくても手に取るようにわかるキラの動揺っぷりに、俺は吹き出しそうになった。わからないなら聞けばいいのに、何だかんだで何も聞かずについて来るんだから、従順というか何と言うか……本当にあらぬところへ連れて行かれたらどうするつもりなのか。
思考がぐるりと一回転して逆に警戒心のなさが心配になった。





しばらく歩き、図書館の前に着いたので、そろそろ種明かしでもするか、と俺は歩みを止めずに口を開く。

「どうした? 今日の数学の復習をするんだろ? 教科書より参考になる本があっちにある」
歩くスピードを落として振り返りながら言うと、キラはきょとんとした表情を浮かべた。それから後ろを歩いていた彼は俺の横に並んで、そんな本読むの君くらいだよと軽口をたたく。

そして書架に対して、一緒に並んだ俺たちは、声のボリュームを落として話しあった。
目当ての書籍を見つけて、俺は指差す。

「この本もいいが、あっちのやつもわかりやすい」
「え、これ?」
指をずらして示すと、キラは指示した本の隣の書籍に手を伸ばしたので、それを右手で制して左手で正しい本を取り出す。

「違う、こっち」
参考書の表紙を見せるようにして彼の方を見ると、キラの頬がほんのりと赤らんでいた。
目でそれを問うと、意外な答えが返ってくる。

「思ったんだけど、アスランって素でたらしだよね。そんなんじゃみんな勘違いしちゃうよ」
「……どういうことだ?」
「だから、」
思わず大きな声を出してしまったキラは、ばつが悪そうに音量を落として話を続ける。

「そんなに優しくしていると、自分に気があるのかもって勘違いされちゃうよ、ってこと」
思いがけない台詞に眩暈した。
目の前の人物は今、自分がどういう発言をしたのか分かっているのだろうか。

落ち着け、と自分自身に言い聞かせながら小さなため息を一つ。

「少なくとも、俺はキラに気があるから、間違った行動ではないと思うが? キラが勘違いしてくれたら俺は嬉しい」
警戒させないように笑って、ごく自然に呟く。

「好きだよ、キラ」
「…………趣味悪いよね、アスランって」

触れたままだったキラの手がピクリと震える。
ゆっくりと離せば、さっと後ろに隠された。

(……かわいいな。これからどう落としてやろうか…)


少しだけ湧き上がった凶暴な気持ちを、俺は笑顔でごまかした。




END

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こんなのがあったら面白いよね、と日記の呟きに対して、リクエストがあったので書いてみました。
アスランが若干ストーカーちっく…。
そんなつもりは一切ないです……。
あとこのシリーズのアスランは意外と策士です。


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