36 「「ぎゃあああああ!!!」」 『やかましいわ!少し静かにせえ!!』 あの後、竜士くんは何も言って来なかった。それに燐くんと二人で安堵して一息ついた束の間、今度は廉造くんも合流することに。 丁度その時、子猫丸くんから協力要請が入り、彼の元へと向かえばそこには大きい"化燈籠(ペグランタン)"が待ち構えていた。 どうやら今回のルールの解釈は間違えていたようだ。 これを一人で運ぶのは無理がある。 そこで私達六人は協力することになったのだけれど…― 「いやああああ!!!」 「うぎゃあああ!!!」 私と廉造くんは大の虫嫌いで先程から集団で襲ってくる虫豸をガードしながら騒ぎっぱなしだった。 それを経を唱えながら竜士くんが筆談で突っ込んでくる。 竜士くん器用だなぁ…! ピィィィ!! 「ロケット花火!?」 「誰かギブアップしたんかな?」 「おい…!吊り橋だ!」 無理だと判断した時はロケット花火を打ち上げるように言われ、各自渡されている。それが光を発しながら空に打ち上げられた。 そちらに気を取られていると今度は前方に吊り橋が見えてきた。 「!?…う"う"う"わ"あ"ーーーーい!!!!」 「!?」 「下下下!!ぎょーさんおるぅ〜!!!」 これじゃ渡れない…そう思っていると廉造くんが突然悲鳴を上げる。 ん?下……? 「!?ぎゃああ!!むむむ、無理無理無理無理ィィ〜!!!」 「あかんあかんあかんあかんんんん!!こないなもん無理やァァ!!?」 ヒィィィ!!っと廉造くんと二人で抱き合っていると竜士くんが考えがあると言い出した。 先に子猫丸くんと燐くんがリアカーを向こう岸へと運び、燐くんはもう一度どこちらに戻る。 そして燐くんがしえみちゃんを、廉造くんが私を肩車して待機。向こう岸では子猫丸くんが札を持って待機する。 竜士くんが札をはがして化燈籠を解き放ち、燐くんと廉造くんはしえみちゃんと私を担いで向こう岸まで虫沼をダッシュ(虫沼は浅いので歩けるらしい) 化燈籠は女性が好物らしく、恐らく私達を追ってくるはずだ。そこを子猫丸くんが札をはって封印。 と言う作戦らしい。 竜士くんは相変わらず経を唱えながら図解してくれた。 本当に器用だなぁ…! 「あっはっはっは!俺に虫沼に浸かれ言うんですかぁ?はっはっは!しかも頭を名前ちゃんの太ももに挟まれて?」 「?」 「往生しますよ…いろんな意味で」 廉造くんはいきなり笑い出したかと思うと今度は泣き始めた。 「志摩さんは少し往生して煩悩を断った方がええよ」 「子猫さんまで!ヒドイ!」 『往生際の悪い!!』 「…おい、俺がやるから…」 「私は廉造くんと吊り橋で行くから、ね?じゃないと廉造くんが可哀想…ひゃあ!」 廉造くんが可哀想なのでそう提案すると涙を流しながら抱き付いてきた。 「そう言うてくれるんは名前ちゃんだけや〜!」 「れっ、廉造くん!?」 『ええ加減にせぇよ志摩!!虫沼に突き落とすえ!?』 「ゴメンナサイィィ!!それだけは堪忍!!!」 竜士くんが筆談で怒ると廉造くんはすごい勢いで謝っていた。よっぽど嫌らしい…。 気持ちは痛いほどわかるよ…! 「ほな、渡ろか?」 「う、うん…」 吊り橋に恐る恐る近付く。 ちょっと怖いかも…下は虫沼だし…。 「怖い?」 「っ!う、ん…少しだけ…」 私が躊躇っていると廉造くんが顔を覗き込んで聞いてくる。 その優しい顔にドキッと心臓が高鳴った。 その顔は反則だよ…! 「…ほんならこうしよか?」 「へ?きゃあ!」 廉造くんが少し考える素振りを見せるといきなり私を抱き上げた。 「ちょっ!廉造くん!?」 「しっかり掴まっててな」 「ひゃあああ!!」 そう言うと廉造くんは私を横抱きにしたまま一気に吊り橋を突き進む。 「ほいっ!到着!」 「志摩さん!名前さん!大丈夫ですか?」 「うぅ、腰抜けた…」 「はは、ほなしばらく掴まっとってええよ」 「うん…」 廉造くんが降ろしてくれたものの、腰が抜けてしまった私は廉造にぎゅっとしがみつく。そんな私を包み込んで背を撫でてくれた。 「ほんま、かいらしいなぁ…(役得やな!)」 「「(…あの野郎!)」」 ぽんぽんと頭や背を廉造くんに撫でられながら向こう岸へと視線を向ければ燐くんがしえみちゃんを肩車していた。 「こっちは準備OKです!」 「ぎぃやああ…ブチブチブチて!すごい…!信じられん!」 「ひぃぃ!い、言わないでェェ!!廉造くん!!」 「こっちもいいぞ!!」 「よし行け!」 竜士くんが札をはがすとしえみちゃん目掛けて化燈籠が動き出す。 「子猫丸!!しえみ頼む!」 「杜山さん、脇に!カーン!!」 化燈籠がリヤカーに乗った瞬間、子猫丸くん札をはり、経を唱える。 「やった…!」 「燐!やったよ!」 「うまくいったな!」 「燐くん!やったね!」 作戦が成功したことにみんなで歓喜の声を上げる。 「奥村くん早よつかまり!」 「大丈夫大丈夫!これで一安心だな!!」 「!?」 燐くんがそう言って飛び上がった拍子に縄に木刀が当たり、ぶちりと切れてしまった。 何か嫌な予感が…!! 「れっ?」 【ギューヂヂギギギギ】 「…おッッぎゃあああ〜!!!」 「なな、なにやってんのやー!!」 「ぎゃあああああ!!!」 悪魔を封印する縄が切れ、虫沼から巨大な蛾が這い出てくる。 蛾は触手を燐くんに伸ばし、彼の身体を捕らえた。 「燐くん!」 「大丈夫だ!倒してすぐ追いつくから!皆は先に行け!!夜が明けちまうぞ!急げ!」 「お前は…またそれか…!」 「悪りぃ!」 「阿呆が!助けるに決まっとるやろ!!」 「!」 「志摩!キリク!!あと逃げる準備しとけ!!」 「はい!」 竜士くんは廉造くんから錫杖を受け取り、札と共に巨大な虫豸に向かって投げ付けた。 【ブギッ!!】 「ノウマク サンマンダ バサラダニカン!カンカマーン!!!」 【ギエ"エ"エ"!!!】 「キリーク!!」 虫豸に錫杖が刺さり、竜士くんが真言を唱えれば虫豸の動きが止まる。そして戻ってきた錫杖をパシッと手に取った。 「す…すげぇ〜!!」 「早よ来い!俺にはこれが限界や!!」 「え?倒してねーの?」 「逃げろォー!!!」 「うおおおお!!」 「ひぃぃぃ!!」 竜士くんの言葉を皮きりに私達は全速力で走り出した。 「ありがとな!!」 「…別に借り返しただけや!」 「借り!?」 「俺はお前に救われたんや…俺と同じ『サタンを倒す』なんてガキ臭い野望を…恥ずかし気もなく言うお前にな…!」 「…もう追って来ぉへんようですよ」 「少し休憩しよか」 私達は虫豸が追って来ないのを確認し、少し休憩することにした。 「はぁ…はぁ…」 「大丈夫?名前ちゃん」 「うん、大丈夫…ありがとう」 呼吸を整えているとしえみちゃんが心配そうに私を見る。彼女を安心させるように笑うとしえみちゃんもほっとしたように笑みを浮かべた。 「まあ俺はそーゆーとこ深く考えないからな」 「…俺はお前が頭悪いなんて思っとらへん。でもな、なんでも一人で解決しようとするな!味方を忘れるな!」 「!」 「そうや、サタン倒すんやったらきっと一人じゃ倒されへんよ」 「さすが坊…ええ事言うわ…まあ俺は虫関係は全く役に立たんけど。あとサタンも無理でっせ」 「燐!みんないるよ!」 「もう燐くんは一人じゃないよ!ね?」 「うん…」 * 「バンザーイ!!無事帰還や〜!!」 「おっ、お疲れさん!無事戻ってきたな」 私達は無事拠点に着く事が出来、ホッと息を吐く。 拠点にはシュラさん以外に出雲ちゃんと宝くんがすでにいた。 すごい…!でもどうやって運んだんだろう…? 「痛!」 「?しえみちゃ…!?」 突如しえみちゃんが首を押さえて痛みを訴える。彼女に声を掛けようとしたその時、嫌な気配が背筋を走った。 「ひゅー…シュタッ!」 「!?」 「ゴー!ベヒモス!」 (どうか…この日常を、奪わないで…) |