きらきら、光る | ナノ
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 願わくば、君と


ザアッと音を立てて吹く風に揺られ木々が美しい音色を奏でる。

「庄左ヱ門ー!」

「きり丸!」

「今日はもう授業ないんだろ?一緒に帰ろうぜ!」

四月─
桜の花が美しく咲くこの季節。僕らは大学生活三年目を迎えた。

「折角だから他のみんなも誘おうか」

「おっ、いいねー!庄左ヱ門の奢りか?」

「何でだよ」

相変わらず僕らは一緒にいることが多く、暇を見付けてはよく共に行動をしていた。

「しっかし庄左ヱ門の彼女とやら、見てみたかったなぁ」

「またその話?もういいじゃん、忘れてよ」

「だって、どんなに言い寄られても靡かない庄左ヱ門の分厚いハートを射抜く奴だぜ?よっぽど美人だったんだろうなぁ」

「何だよ、それ」

きり丸の意味不明な言葉にくすくすと笑みを零す。
名前が僕の前から姿を消してから幾つもの季節を巡った。あの後も時折小高い丘に何度も足を運んだが結局彼女に会うことはなかった。

「見たかったな〜」

「俺も〜」

「ぅわっ!?団蔵!いつの間に…!」

いきなりにゅっと姿を現した団蔵に驚いて飛び退く僕を見て彼はけらけらと笑う。気が付けば毎度お馴染みのメンバーがその場に勢揃いしていた。

「よぉし!全員揃ったところでどっか行こうぜ!」

『おおー!』

わらわらと歩き出すみんなに小さく笑みを零していると突然「庄…?」と名前を呼ばれる。その懐かしい呼び方に、聞き覚えのある声色に、僕はバッと勢いよく後ろを振り返った。

「名前…?」

自分の後ろに立っていたのはもう会えないと思っていた名前の姿だった。

「庄…!庄、なのね…!」

「っ!!名前…!!」

僕のことを見て涙を流す彼女を気が付けばきつく抱きしめていた。以前と変わらぬその容姿に、声に、ぬくもりに、甘い香りに、僕の中の記憶が名前だと訴えかけ、胸がぎゅっと締め付けられる。

「名前…!会いたかった…!ずっと、ずっと…!」

「庄っ!私もよ…庄にずっと、会いたかったわ…」

ゆっくり身体を離し、涙で濡れる彼女の頬に手を添えて顔を近付けた。しかし突き刺すような視線の数々にピタッと動きを止めて恐る恐る周囲に視線を向けた。

「ぅわあああ!?」

「へ?っ!?」

じーっとこちらを見つめる兵太夫やきり丸、団蔵、虎若、喜三太、しんべヱに恥ずかしそうに視線をそらす金吾に乱太郎、伊助、三治郎が僕らの周りを取り囲んでいて、僕は慌てて名前を離した。



「良かったの?みんなと帰らなくて…」

「当たり前だよ!今は名前の方が優先だ!」

あの後、紹介しろと騒ぐ団蔵達を何とか説得し、僕は名前を連れて自宅へと帰ってきた。ベッドにちょこんと座り、申し訳なさそうな顔をする名前に小さく笑みを零して彼女の隣に腰を下ろした。

「名前…本当に名前なんだね…」

「ふふ、本物よ…疑いたくなる気持ちもわかるけどね」

苦笑いを浮かべる名前の唇に堪らず口付けると彼女はきゅっと僕の胸元を握ってきた。彼女の左手の薬指には以前僕が贈ったシルバーのリングが嵌められている。

「名前…訳を、聞かせてくれないか…?」

ちゅっと音を立てて唇を離し、頭を撫でて名前に問い掛けると彼女はこくりと一度頷いて口を開いた。

「私達はどうやら試されていたみたいなの…」

「試されていた…?」

「うん…庄が事故に遭った時、既に私の転生は決まっていたの」

「え、そうなのか!?」

彼女の口から伝えられる真実に驚きを隠せずにいると名前は僕を見て困ったように笑った。

「本当は庄の記憶から私は削除され、私も全てを忘れて人間に転生されるはずだった…でも庄の記憶から私の存在を消すことは出来なかった」

「っ…!」

「実際は忘れていたかもしれないけど、庄の記憶から完全に私が消えることはなかった…だから消えるまでの間、私は天界に閉じ込められることになったの。それでも、庄の記憶の底で私は生き続けた…」

「なるほど…だから名前に再会した時に僕は名前のことを思い出せたのか」

「ええ」

顎に手を当て、考え込む僕に名前はくすくすと楽しそうに笑った。

「神様も流石に痺れを切らしてね。最後に賭けに出たのよ」

「賭け?」

「そう。最後に私達を引き合わせてどれだけお互いを必要としているのかを見極めたかったんですって。私が庄に会いたいってお願いすることも見抜かれてたみたいね」

恥ずかしそうに肩をすくめる彼女に今度は僕がくすくすと笑みを零した。

「それじゃあ僕達はその賭けに勝ったんだね」

「うん、そうなるね…」

僕らは再会して恋に落ちた。たとえ結ばれるはずがないとわかっていても互いを想い、一緒にいたいと強く願った。神様でも引き離すことが出来ない程僕らは互いを必要としているのだ。

「私は記憶を消されることなく人間に転生され、庄が事故に遭ったあの日に生まれてきた。初めは記憶がなかったけど、庄と結ばれて別れたその日に全ての記憶が戻ったのよ」

「そうなんだ…」

「それから大変だったのよ?庄が通ってる大学に入るのに必死に勉強して、両親も説得して…。やっと今年高校卒業してこの地に戻って来れたの」

今までのことを思い出したのか名前は疲れたような顔で僕の肩にもたれ掛かる。それがなんだか愛おしくて、僕は笑みを零しながら彼女の身体を引き寄せた。

「指輪、持っててくれたんだね」

「うん…だって私の宝物だもの…」

愛おしそうに指輪を撫でる名前の手に自分の手を重ねて握った。彼女から伝わってくる体温にトクンと鼓動が鳴り響く。

「名前…新しい指輪買ったら、付けてくれる?」

「え…?」

「結婚しよう」

驚いて僕の肩から頭を上げる名前をまっすぐ見つめ、はっきりと告げれば彼女の目が大きく見開かれた。

「今すぐには無理でも、いずれ一緒に暮らして、僕と共に生きてくれないか…?」

もう、離れないように…そう願いを込めて彼女の左手を取って薬指に口付けを落とせば名前の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちた。

「嬉しい…!ずっと、庄とそうなれたらって思ってたから…」

「名前…僕のそばにいてくれる?」

「はい!喜んで!」

僕らは互いに額をくっ付け、笑い合った後に誓いの口付けを交わした。

「名前」

「庄」

「「愛してる」」


共に生きる未来を望む


数年後─
僕らの左手の薬指には
お揃いの指輪がきらきらと
光り輝いていた─


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愛しい君に、
永遠の愛を誓うよ─

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