「おっ、金造!誕生日おめでとう!」
「おぉ、おおきに!」
い、今だ…!今がチャンスよ、名前…!!
11月17日―
今日は隣のクラスであり、同じ祓魔塾の仲間でもある志摩金造くんの誕生日で、先程から彼にプレゼントを渡そうと奮闘中なのだけれど、あと一歩の勇気が出ずにいた。
「うぅ…やっぱり諦めようかな…」
視線を下に落とし、渡そうと思っていたプレゼントをきゅっと胸に抱きかかえてため息を零した。
元々彼に直接聞かされた訳ではなくて、友達と話しているのを偶々聞いただけだし…。
教室の入り口で佇んでいた足を動かし、自分のクラスへ戻ろうと一歩踏み出した。
「名前?お前何してん?」
「し、志摩く、痛っ…!!」
突然後ろから声を掛けられて振り返ると志摩くんが立っていて、何故か私の頭にチョップをしてきた。
い、痛い…!!
「"金造"って呼べ言うたやろ!」
「は、はい…き、金造くん…」
「ん、まぁええやろ」
名前を呼ぶと金造くんは嬉しそうにニカッと笑い、先程チョップをしてきた私の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。その人懐っこい笑顔や優しい手に胸がきゅっと締め付けられ、鼓動が早くなる。
やっぱりカッコいいな…金造くん…。
「で?何してはったん?」
「ぅ、あ、えっと…!」
「金造ー!聞いてよ!コイツがさぁ」
勇気を振り絞ってプレゼントを渡そうとするが数人の男女が彼に話し掛けてきたことによりそれは遮られた。
「ちょお待っとき!今、忙し」
「いいの!」
「あ?」
「何でも、ないから…じゃあ、またね…!」
「ちょっ…!名前!?」
私は金造くんの制止の声も聞かずにその場から逃げ出した。
*
「はぁ…結局渡せなかったな…」
あれから金造くんに一度も会うことなく放課後を迎える。今日は祓魔塾もないため彼に渡すチャンスはもう残されていなかった。
人懐っこい金造くんは男女問わず人気で、常に彼の周りは人で溢れている。
きっといろんな人からプレゼントをもらってるだろうし、私なんかから渡されても迷惑かもしれない…。
そう自分に言い聞かせて校舎を出て寮までの帰り道を一人でとぼとぼと歩く。
「名前!!待たんかい、ゴルァ!!」
「へ?わわっ!?き、金造くん!?」
後ろから聞こえてきた声に恐る恐る振り返るとものすごい形相の金造くんがこちらに走ってくる。それに青ざめて私も慌てて走り出した。
「テメッ!逃げんなや!!」
「や、やだ!なんか怖いもん…!!」
「何がやねん!!」
祓魔塾の中でもずば抜けて運動神経のいい金造くんに適うはずもなく、あっという間に距離が縮まっていく。
「きゃあ!?」
「捕まえたで!観念しぃや!」
ガシッと腕を掴まれ、私は行く手を阻まれる。それでも抵抗をしていると舌打ちをした金造くんが私を肩に担ぎ上げた。
「き、金造くん!?やだ!降ろして…!!」
「暴れるとパンツ見えるで」
「う…!」
金造くんの言葉にピタッと動きを止めるとくつくつとおかしそうに笑われた。
「ここやったらええやろ…」
「ふわ!?」
彼に担ぎ上げられたまま連れてこられたのは噴水がある学園の中庭だった。
私は漸く噴水のところへ降ろされる。その横に金造くんがドカッと腰を下ろした。
「ん!」
「へ?」
「俺に渡すもんあるやろ?」
ずいっと出された金造くんの手に首を傾げていると唐突にそう言われた。それに慌てて鞄の中に大切にしまってプレゼントを取り出す。
「お誕生日おめでとう、金造くん」
「ん、おおきに!」
震える手で金造くんに渡すとニカッと笑みを浮かべた彼が嬉しそうにプレゼントを受け取る。そして躊躇うことなくラッピングを開け始めた。
ま、待って〜!心の準備が…!!
「ブレスレット?」
「う、うん…金造くんに似合うかなって思って…」
友達と買い物をしていた時に見つけたそれは赤い皮のブレスレットにシルバーの飾りが付いたシンプルなデザインのものだった。
「むっちゃカッコええなぁ…!あかん!これ気に入ったわ!ちょお付けてくれへん?」
「うん…!」
キラキラと瞳を輝かせた金造くんがブレスレットを私に手渡し、左腕を差し出す。彼の手首にブレスレットを付けると嬉しそうに私に見せてきた。
「どや!ええ感じやろ?」
「うん!カッコいい!よく似合ってるよ!」
ニカッと笑う彼につられて私も笑みを零せば金造くんにわしゃわしゃと頭を撫でられた。
「ありがとおな!大切にするわ!」
「ううん!喜んでもらえて良かった…!」
金造くんが喜んでくれたのが嬉しくて、ふにゃりと頬を緩ませる。すると私の頭を撫でていた手がするりと頬へ滑り落ちてきた。
「さすが名前や!俺が惚れただけあってセンスええな」
「はい…?」
私が金造くんの言葉にピシッと固まっていると彼は私の頬から手を離し、「やっぱり気付いてへんかったか…」とため息を吐いた。
「俺が何のために"金造"って呼べ言うたかわからへんのか?好きな女に名前で呼んでほしいからやで」
「わ、わかんないよ!ってかみんな金造くんって呼んでるじゃない!」
「アホ!自分から呼べ言うたんは名前が初めてや!わざとデカい声で自分の誕生日言うたんも名前に祝ってほしいからやったんやで?」
「う、嘘…!?」
「嘘ちゃうよ!名前から"おめでとう"て言うてほしかってん…それやのにいつまで経っても来おへんから…」
目を瞬かせて彼を見ていると金造くんは拗ねた表情をする。それが何だか可愛らしくて、笑みを浮かべているとムスッとした顔で私を見てきた。
「何笑うてんねや?」
「ふふ、ごめんね。なんか可愛かったから…!」
「男に可愛い言うても喜ばへんで!」
くすくすと笑う私に対し金造くんはますます不機嫌になる。一頻り笑ったところで私は姿勢を正して金造くんと向かい合った。
「金造くん…あの、ね…」
「おん?」
「私も、金造くんのことが…す、好き…です…」
「っ!?」
勇気を振り絞って自分の想いを蚊の鳴くような声で彼に伝える。すると金造くんはピシッと固まったまま動かなくなってしまった。
「金造くん…?うひゃあ!?」
「あかん!何やこれ!?むっちゃ嬉しすぎる…!!」
ガバッと抱き付いてきた金造くんにそのまま押し倒される。バクバクと暴れ出す心臓を落ち着かせながら彼を見上げるとニカッと笑った金造くんがチュッと唇に口付けてきた。
それにカァァッと顔が赤くなる。
「ななななっ!?」
「名前…お前もブレスレットも大切にするな!せやからもうちょっとキスさせろや」
「えぇっ!?ちょっ、んんっ…!」
外だということも忘れ、強引な彼にしばらく堪能されることに…。
僕を祝って!
「今日は俺の誕生日と俺らの記念日ちゅうめでたい日や!せやから美味いもんでも食い行くで!」
「うん!喜んで!」
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