14 「これを、こうして…!」 夜寝る前に暇を持て余していた私は自室で今日買ってきた着物を使い、着付けの練習をしてみることにした。 着付けって結構難しいんだなぁ…。 「うーん、こんな感じかな?」 悪戦苦闘しながらも何度か繰り返し練習し、なんとか様になってきたところで私は練習をやめた。 「さぁて、そろそろ寝ようかな」 明日から学園のお手伝いさんとしての仕事が始まるし、遅刻しては大変だと急いで寝巻きに着替えた。 「名前さん、起きてますか…?」 「ん?」 布団に入ろうとしたところでトントンと障子を叩く音と共に誰かに声を掛けられ、こんな時間に、一体誰が…?と私は首を傾げながら戸に近付いた。 「きり丸くん!どうしたの?」 障子に手を掛け、開けるとそこには布団を持ったきり丸くんが立っていた。 「名前さんと一緒に寝ようと思って」 「私と…?」 「そ!名前さん一人だと寂しいんじゃないかと思ってさ」 ニッと笑うきり丸くんに目を瞬かせる。そして私はすっと手を伸ばして彼の身体を強く抱きしめた。 「わわっ!?名前さん!?」 「優しいね、きり丸くんは…」 ぎゅっと力一杯抱きしめると彼もおずおずと布団を掴んでない手を私の背中に回してくる。それに頬を緩ませ、もう一度ぎゅっと抱きしめ直してからゆっくりと身体を離した。 「きり丸くん、一緒に寝てもらってもいい?明日ちゃんと起きられるか心配だし…」 「もちろんっすよ!俺がきちんと名前さんのこと起こしますから」 「タダで?」 「名前さんなら特別に!」 私達は顔を見合わせ、二人で声を出して笑い合った。 「ねぇ、名前さん」 「ん?なぁに?」 きり丸くんと布団を並べて敷いて横になっていると彼が話掛けてきた。仰向けだった身体をくるりときり丸くんに向けると彼もこちらに身体を向ける。 「その、やっぱり不安…?」 こちらを窺うように言葉を発するきり丸くんは私よりももっと不安げで、そんな彼に小さく笑みを零した。 「ううん、大丈夫よ。私にはきり丸くんのように優しい人達がいっぱいいてくれるから…」 この学園の人達は優しい人ばかりで、不安など感じさせないくらい良くしてもらっている。本当に素敵な人達だ。 「そっか!安心した!」 私の言葉を聞いたきり丸くんはニッと笑みを浮かべる。そんな彼につられて私も笑みを零した。 「俺はいつだって名前さんの味方だから!何か困ったことがあったらいつでも言ってよ」 「ふふ、ありがとう!きり丸くんが味方になってくれるとすごく頼もしいよ」 「でしょー?名前さんのためだったらサービスしますよ!」 「あれ?タダではやってくれないの?」 「う、う〜ん…」 ちょっと意地悪をしてそう言うときり丸くんは唸り声を上げて悩み始める。それが何だか可愛くて、思わず噴き出して笑ってしまった。 「あはは!嘘、嘘!ありがとうね、きり丸くん。きり丸くんも何かあったら私に言ってね?力になるから」 「タダで!?」 「どうしようかな〜?」 「そ、そんな〜!」 私の言葉に途端に情けない声を出すきり丸くんにまた声を出して笑うと彼も一緒になって笑い始めた。 「名前?まだ起きているのか…?」 「土井先生!」 障子の向こう側から聞こえてきた声にむくりと起き上がるとそこには月明かりに照らされて出来た先生の影が浮かび上がっていた。 「何すか、土井先生。夜這いですか?」 「その声はきり丸か!?な、何でお前がここに!?」 「土井先生が名前さんに夜這いしないか見張りに来たんすよ」 「なっ!?」 「きり丸くん…」 わたわたと慌てる土井先生の反応をいつの間にか起き上がっていたきり丸くんがニヤニヤと笑いながら見ている。そんな彼に苦笑いを浮かべた。 土井先生も大変だな…。 「わ、私は!名前のことが心配で…!たまたま部屋の前を通った時に声が聞こえたから不思議に思ってだなぁ…!」 「またまた〜!」 「っ〜!きり丸!いいから早く寝ろ!!名前、お前も今日はゆっくり休みなさい」 「はーい」 「土井先生、今日はありがとうございました。おやすみなさい」 「ああ、おやすみ」 私達は再び横になり、顔を見合わせてくすくすと笑った。 |