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07


耳に当てたイヤホンからはお気に入りの曲が流れてくる。
それを聴きながら自分の部屋の机に向かって明後日行われる小テストの勉強をしているとふと机に置いていた自分の携帯が目に入った。

「廉造くん、何してるんだろう…」

先日、漸く廉造くんとアドレスを交換してここ数日の間に何回かメールのやり取りもした。だけど電話はまだ一度もしたことがなかった。

「声、聞きたいな…」

音楽を止めてイヤホンを耳から外した。そして携帯を手に取ってアドレス帳を開く。
廉造くんの名前と番号を表示するところまではスムーズに出来るのだが、通話ボタンを押せずにいつも断念するのだ。

「うぅ…」

震える指先でボタンを押そうとするがあと一歩の勇気が出ずに手を引っ込める。
ぅわああああ!!やっぱりダメだァァァ!!

机になだれ込んで頭を抱えていると突然携帯が小刻みに震えだす。それにビクッと飛び上がって携帯を見ると画面には着信の文字と『志摩廉造』の文字が表示されている。

私は震える手で携帯を握りしめ、ボタンを押して耳に当てた。

「も、もしもし…?」

「名前、ちゃん…?」

緊張して震える声で問い掛ければ遠慮がちに名前を呼ばれる。もしかしたら廉造くんも緊張してるのかな…?そう思ったら幾分か気持ちが楽になり、くすくすと笑みが零れる。

「名前ちゃん、今何してるん?」

「えっと、明後日の悪魔薬学の小テストの勉強してたの」

「え"…小テスト!?」

受話器から聞こえる心地よい彼の声に鼓動が早くなるが、なんとか平静さを装って答えれば廉造くんが焦った声音で聞き返す。
それがおかしくて思わず笑ってしまった。

「あはは!もう、雪男くんの話聞いてなかったんでしょ?」

「お、ん…あかん!どないしよう!?」

「ふふ、大丈夫!明日私が教えるよ」

「ほんま!?わぁ、名前ちゃんおおきに!」

私の言葉を聞いた途端明るい声音に変わった廉造くんがおかしくて、またくすくすと笑みが零れる。

「廉造くんは何してたの?」

「ん〜?空、眺めとった」

「空…?」

「おん、部屋で騒いどったら坊に怒られてしもて…外出て星見てたんよ」

何気なく廉造くんに訊ねれば思わぬ答えが返ってきて、「あはは!」と声に出して笑ってしまった。
何でだろう…彼と話しているだけでこんなにも胸が弾むだなんて…。

廉造くんが見ている景色を見たくて、椅子から立ち上がり窓に手を掛ける。
見上げれば幾千もの星達がキラキラと輝き、夜空を明るく照らしていた。

「わぁ!本当だ…!すごく綺麗…!」

感嘆の声を上げて夜空を眺めていると廉造くんの笑い声が聞こえてきた。

「廉造くん」

「ん?」

「ありがとう…廉造くんのお陰で綺麗な星を見ることが出来たから…だから、ありがとう」

ずっと、ずっと彼の声が聞きたいと思ってた。それが叶えられただけでも嬉しいことなのに、こんなにも綺麗な景色を見ることが出来て…たった数分でもあなたと時間を共有することが出来て…とてつもない喜びが湧き起こる。

ああ、これが"幸せ"っていうことなのかな…。

「…俺も、ありがとお」

「へ?」

「名前ちゃんと電話出来て、むっちゃ嬉しい…」

突然廉造くんから言われた言葉に、優しい声音に、カァァッと顔が熱くなる。

「そ、そんな…!わ、私も…廉造くんと電話出来て嬉しいよ…!」

「っ…!」

恥ずかしさと嬉しさに興奮気味で途切れ途切れに廉造くんに伝える。
ああ、どうしよう…!嬉しすぎて気持ちが溢れちゃいそう…!

「名前!アンタいつまで電話してるのよ!?」

「わっ!?出雲ちゃん…!?」

携帯を握る手に思わず力が入った時、後ろから出雲ちゃんに声を掛けられる。それに大きく心臓が跳ねて、持っていた携帯を落としそうになった。

「早く寝ないと明日起きれなくなるわよ?アンタただでさえ寝起き悪いんだから…」

「わーっ!!出雲ちゃん、シーッ!!聞こえちゃうでしょ!?」

廉造くんに聞かれちゃう!!と慌てて出雲ちゃんを止めるが時すでに遅く、受話器の向こう側からは笑い声が聞こえてきた。
ぅわーん!!恥ずかしい…!!

「うっ…廉造くん、ごめんね」

「おん、ええよ」

あまりの恥ずかしさに顔を赤くしながら謝れば笑いを含んだ優しい声でそう言われた。

「えっと、また明日ね」

「おん…ほな、また明日な」

「おやすみなさい…」

そっと耳から外して電話を切る。あまりの幸せさに夢だったんじゃないかと着信履歴を見るとそこには確かに廉造くんの名前があって、私は携帯をぎゅっと両手で握って胸に押し当てた。


耳に残る君の声


今日は素敵な夢が見られそう。

その中に君がいてくれたらと思ってしまう私は、

あなたのことが…―


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瞳を閉じれば
君が隣にいるような気がして
胸が熱くなった…―




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