緊急発進にご注意を! その3



列車にゆられながら、流れる景色をみながらどこかしんみりとした沈黙に、ネロは居心地の悪さから眉をしかめる。
今回事務所に電話がかかったのは、その町の市民の一人からだった。
”街の中心にある広場に、夜な夜な不可解な蹄の音が聞こえる”その通り街の中心部に位置する広場は
城壁のように門で囲われており、夜は閉じられた門から人が広場に入ることはできない。
馬のような蹄の音に門番が扉をあけようとすれば、鍵もないのに固く閉じられ開かないのだという。
市民に危険が及ぶまえに何とかして欲しいという。大方公園に何かしら悪魔憑きのものが埋められたかしたのだろう。
よくある話ではあるが、正直その悪魔のことよりも目の前でしんみりとした空気を漂わせるダンテのほうが、ネロにとっては気がかりでしかない。


普段ならば電車だろうが何だろうがテンションの高さにうんざりしている頃だろうに。
大きく欠伸をしたネロが、窓の外に目線を送る。ダンテの事務所があるスラムからレッドグレイブ市への道のりは遠い。
この空気がまだ続くのだと思うと、ネロは肩を大きくわざとらしくすくめて「おっさん、どうしたんだよ」
そう、普段ではありえないような髭への気遣いの言葉をなんとか搾り出したのである。

今回依頼に同行しているのは、ネロとおっさんこと髭のダンテだ。


「レッドグレイブ市は俺の故郷だ」

「ふぅん……って、はぁ?」


さらっと言ってのけたダンテに、列車の窓際に頬杖をついていたネロが手から顎を落とす。


「おっさん……あんたも子供の時代があったんだな」

「当たり前だろ」

「いや、なんか、想像できなくて」


うっすらとではあるが、ダンテの過去をレディに聞いたことがある。
彼女も詳しくはしらないというが、事務所にある金髪の女性…母親をその土地で悪魔の魔王によって殺されている。
それは確かに、ある意味家族を失ったトラウマの地に向かっているということであるのだから
悪魔も泣き出すダンテこそ、泣き出しそうな複雑な思いではあるのだろう。

今回の依頼も皆が押し黙る中俺をフォローするようにおっさんが同行の挙手をした。
あのときの拒んだ空気は、こういうことだったのかと納得する。

されどデビルハンター、その地に悪魔がいて今にも人が死にそうだというならば、その地に赴くのは運命である。
ネロは今回の依頼がどんな悪魔であろうと最速で終らせようと心に誓った。


ーーーー

天気は良好、足をついたその町は田舎で小さな町ながら発展し街の賑やかさと住宅の閑静さを感じる。
「さて、情報収集から…というよりはまだ夕方だし、夜になるまで宿をとるか?」
「…ん、?あ、ああ」
歯切れの悪いダンテは街の遠くに見える、丘の上にある赤い屋根の家を目を細めて眺めていた。
なんとなく見つめる先の予想はついたが、もしダンテが実家に帰りたいというならネロは止めないでおこうと思っていた。

悪魔が出てくるのは夜。その街で一番マシそうで一番安い宿に、ネロとダンテは足をすすめた。


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