笑う事こそ人生の男と笑う事も忘れた男 その2




勢いで髭にまかせるという言葉に賛同したものの、実は重大な問題がある。
今髭はこの事務所にいないのだ。

時は戻って昨日の夕食のあとの話になる。
突然デビルメイクライに鳴り響いた電話を、めんどくさそうに脚で打ち上げてとった髭はその内容を聞いてにんまりと笑った。
合言葉つき、しかも大物の気配。
直接電話にでたわけでもなく、話を詳しく聞かなかった俺は知らないが、それはそれはダンテ好みの面白そうな仕事が入ったらしく、他のダンテを押し切ってまで髭は依頼に向かったのだ。
実にセコイおっさんである。
帰ってきたらスナッチからの叩きつけは確実だと思えばいい。

その後、あの”ダンテらしくないダンテ”はソファの上で座ったままじっとしている。
向かいにバージルが本を持ったまますわり、ダンテはその姿を見つめたまま動かない。
そう、他のダンテならありえないほど大人しいからこそ、その姿が恐ろしいほどに。


「…なんだ」


いい加減痺れを切らしたバージルがめんどくさそうに尋ねると


「……いや、十代はこんな可愛かったのかと思って」


なんて爆弾発言を落としやがった。
ダンテらしくないなんて見た目で判断したのが悪かったんだ・・・他のダンテに劣らずこいつも十分クレイジーなのは変わりない。


「「はあ?」」


おもわず素っ頓狂な声が俺とバージルの口から漏れた。


「馬鹿かお前は」

「いや、本心さ」


そう言ってバージルに真顔で返すこいつに、俺らはただ、押し黙ることしかできなかった。
あまりにも、普段のダンテと違いすぎて逆に扱いがわからない。


「そういえば、朝食をつくる途中じゃなかったのか?」

「あっ!!やべ!!!忘れてた!!」


腕時計を見ればその針は既に6時近い。
それに、言い忘れていたが今回は早朝からめずらしく依頼が入っているのだ。
行くのは若と初代。遠出だが大きな仕事の気配に髭のようなセコイやり方でなく公平なくじ引きで決まった。
腕の立つデビルハンターが揃ってくじびきなんて、はたからみればそうとう面白い図になっているだろうに違いないが・・・。

朝食の準備のために席をたった俺に続いて目の前のダンテも立ち上がる。


「俺も手伝おう」


そう言ったこのダンテに、俺は本当におっさんというあのグータラダメ親父みたいな存在になにがあってこうなったのかと・・・心の中で歓喜の涙をぬぐうしかなかった。


――――


二代目の手伝いにより朝食を完成させ、俺がふと腕時計を見ると時刻は遅めの8時をまわった。
ちなみに二代目というのはまたもやバージルが命名したものだ。
「若、初代ときたら二代目だろう?」と、なにやら得意げに命名したバージルはどこか瞳の奥が生き生きと光っていたように思える。
それに二代目が納得したように「なるほどジャパニーズマフィアか・・・」とか呟き、それにバージルが食いついたので
ここで俺はバージルの日本好きを初めて知った。ノると話がながそうだ・・・。


「Mornin Nero,Vergil……あー……誰だ?」 


ふとそこに舞い降りた声にみなが振り返った。
大あくびをしつつ、寝ぼけ眼に少し警戒を含めた色をのせた初代のご登場だ。


「はよ、初代。」

「おはよう」

「フン、遅いぞ。」


それぞれが挨拶をかわすが未だに警戒はしいたまま。


「あぁ、で、そっちのアンタは誰なんだ」

「・・・・・・それは、「かわいいな」・・・は?」


若が起きてから話そうとネロが口に出そうとした瞬間、かぶせるようにして二代目は言った。
初代と二代目はお互い見詰め合ったまま動かない。

いや、いやいやいや、確かに可愛いと言ったがそういう意味ではないだろう。
俺たちと同じ、十代だから、若いから可愛いという意味だろう。
この場を見ると、まるで知らない人間に警戒してうなってる犬が年長者な猫に翻弄されているようだ。
髭より年上・・・歳を食うと過去の出来事を全て受け入れ、「可愛い」と思えるいきまで達するのだろうか。
年の功というものだろうか。歳とは悪い意味ではとりたくないものだと切実に思う。


「あの愚弟を起こしてくる。話はそれからだ。」


フリーズした空間で、そうバージルが切り出したことで時間がもどる。



今日朝の事務所にも、寝起きに幻影剣で幾度も刺され、若の悲痛な声が響きわたった。



[ 29/34 ]
[BACK] [NEXT]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -