拍手御礼! 2014/4/28
 −「牧田司郎くんでお願いします」−


『本職が医者だっていう子が入ったらしい』
『指名したらなかなかいい子だった。次も指名しちゃう』
『コスプレオプションで白衣着てっていうとめちゃくちゃ嫌な顔される』
『店の指示で着たときのあの顔』
『諸先輩のおかげでだんだん舐めるのが上手くなってる気が』
『やばいハマる』

そんな書き込みを見て指名した人はとんでもない人物だった。


「牧田司郎です」
「まき…えっいや違うでしょ、み」
「牧田司郎です。よろしくお願いしますね、お客様」


一字一句をはっきりと発音した彼は「失礼します」といって僕の隣に座る。
ファーストコンタクトで見事に牽制をかけられた僕は動けない。目だけで彼を覗くと、普段は絶対に見せない笑顔と、覚えのありすぎる眼光が僕を射抜いた。
牧田司郎は作られた甘え声で自己紹介をし、流れでコースの選択を迫る。最長のコースでと頼むと僕を睨みながら「最短で」と告げられた。もう一度、外にも聞こえるように最長でと叫ぶと、その嫌そうな顔を隠しもせずにコース時間を最長へと変更した。


「コスプレ衣装もお願いしたいんですが」
「申し訳ありませんがお客様、今日はコスプレNGの日です」
「コスプレの日を狙ってきたからそれはないよね。青いシャツと白衣着てくれる? あとお客様じゃなくて、兄さんって呼んでほしいな」
「……わかったよ兄さん」
「敬語はちょっと残してー」
「わかりました」
「あ。それと、行く前に適当なお酒持ってきて。高いのでいいから二つ分、きみと、僕の」
「はい」


この眼光が人を救う者のそれかと問われれば、僕は二つ返事で否と答えよう。彼の目は間違いなく人を殺す側のそれだ。
目線を泳がせている僕を置いて彼がスペースから消え、そのすぐ後に酒だけが運ばれてきた。
そして数分後。いつもより少し濃い青のシャツと、玩具のような出来の白衣を着込んだ彼が戻ってくる。
その顔には表情というより形相という言葉がぴったりの感情を貼り付けていた。


「どうしたの? 宮田先生。隣においでよ」
「俺は兄さん呼びなのに、貴方はどうして先生なんですか? それに俺はまき」
「宮田先生っていう人が僕の初恋の人だから、きみは今だけ宮田先生になってね。そんでもってとりあえず喉が渇いてるから一杯付き合って。はい、かんぱーい」
「……乾杯。いただきます」


殺気で息が詰まりそうだったが、有無を言わさぬよう酒を煽った。
――高い酒を。何とはあえて指示しなかった。彼の立場で値段かアルコール度数のどちらをとるかとなると、やはりアルコールだろう。僕が同じ立場でもやはりウォツカを持ってくる。
喉の焼ける感じから度数はかなり高い。彼も同じものだろうが、奉仕する側に粗相が無いよう、僕のよりも大分薄められているはず……。


「そろそろ…」
「全部飲んで。僕も全部飲むから」
「……わかりました。 ――これでいいですか」
「うん…、ふぅ。じゃあよろしく、宮田先生」
「……はい、兄さん」


指名率No.1 牧田司郎。
彼の奉仕はどこまでのものなのか――




(「宮田先生、ちょっと、顔にかけたいんだけど」)
(「……」)
(「…睨みつつも従ってくれるのって、すっごく新鮮、」)








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