やっぱり初夜
瞼をひらくと、女子がいた。
青々とした空の下、木が音を立てる。そしてチュンチュンと鳥がさえずる静かな朝。一つの叫び声が木霊した。
「破廉恥でござるぅぁあああ!」
「だ、だ、誰であられる!え、え、えええ、えぇぇえ!?女子!?女子が何故に!?某は一夜の…過ちを!?なぬぅうう!叱って下されおやかたさぶぁああ!」
がばりと布団から飛び起きると、青年は周りを見渡し、また悲鳴にも似た叫び声を上げた。パニック状態に陥っているらしい。
青年があわあわと視線を巡らし起き上がろうとした時、ぐいと腕を掴まれる。はっと視線を向ければ、少女は眠たげに目をこすってこちらを見ていた。そして、眉間に皺を寄せると静かに言葉を吐いた。
「そ、そ、某は!」
「静かにしなさい。朝からそんな悲鳴上げて、隣りの山本さんが発作おこしたらどうすんの」
「す、すまぬ」
「夜明けもまだないじゃない。ほんと近所迷惑でしょうが。破廉恥って昨日のこと覚えてないの?タイムスリ…時を、飛び越えて来たんでしょ。んで余りの布団がないからって、ベッドに余裕のある私の元へ。はい、理解できましたか」
「できました」
「じゃあはい布団に戻って」
少女は布団をぴらりと開け、今まで青年がいたところをぽんぽんと叩いた。
「…承知」
「今度はちゃんと寝れる?」
「大丈夫で御座る」
「そう、それなら良かった。おやすみ」
「…お、おやすみなさい」
少女はまた瞼を閉じると、興奮の覚めやらぬ青年の背中をとんとんと軽く叩いた。眠れ眠れと子守歌のようなそのリズムに青年はまた、夢の中に落ちていく。
珍しく母上の夢をみた。
やっぱり初夜「あのー朝ですよ」
ぺちぺちと頬を叩かれた。
「…はは、うえ」
まだ起きたくないと抱き締める腕に力を込め、首筋にうずめた頭をぐりぐりと動かし甘えてみせる。もう少しだけ、このままでいたい。
「ちょ!こそばいって」
「夢の中くらい、甘えさせて下され」
うりゃとうずめた頭をもっと動かす。すると、こらえきれなくなったのか笑い声がして、こそばいでしょうがと軽いお叱りが飛んだ。
「…母上、お元気で」
「?」
「黄泉国でも風邪など引かれぬよう」
静かに息を繰り返していたが、もう起きなければと重い瞼に力を込める。
現実でも、母がそばにいてくれたなら
目を開いて、かちんとそのまま幸村は硬直した。
「…椿、どの?」
何とも言えないような顔で苦笑している少女の姿が、目と鼻の先にあった。はっとして見れば、抱きしめているのは母上ではなく、この少女で。ということは母上にしていたと思っていた今までの行動は全部、少女にしていたということで。
体中がに赤く火照っていく。
「う、う、うわぁああ!どうりで現実味があるとっ!」
「意外と甘えん坊なんだねぇ」
「ああああ!何も言っておらぬ!某は何も!」
「夢の中くらい甘えさせてく」
「うぁああ!忘れて下されぇえ!」