「いーちばんぶろぉお!っと、うお!幸村!」
高宮家次男である類は全裸で吃驚した。
一番風呂だと気分最高潮で風呂のドアを開けたが、風呂釜にはまさかの先客あり。
入れようと楽しみにしていた「温泉の素」がしゃりと音を上げた。
「おお!類殿!」
頭にタオルを乗せた幸村は屈託ない笑顔を類に向けた。
「え!うっそ!まじ!幸村居るとか予想外!もう俺脱いじゃったんだけど!」
心底残念そうに声を上げる類に、幸村は思いついたように目を輝かせた。
「ならば共に入ろうではないか類殿!」
「あ!それ良い!ナイス幸村!」
「そうであろう!ささ!お湯に浸かってくだされ!某は今からしゃわあをするゆえ!」
「うわー修学旅行みてえ!」
じゃ温泉の素入れるからなーと封を切った類は、お湯の中へ白い粉を注いだ。
「摩訶不思議な砂でござるな!」
「だろ?ただのお湯を温泉にする魔法の粉なのさ!」
「なんと温泉に!?先の世は真に神秘的であるな」
友情風呂
ボトルをプッシュして、どろりとした液体を頭につける。そして幸村は乱雑に頭を洗い始めた。
「うわ、ちょ!泡飛ぶ!いって!目に入った!」
「おお、すまぬ」
「謝るんなら飛ばすなよ!むちゃくちゃいてーし!」
どうやら幸村は頭を洗う力の加減がまだ分かっていないらしい。っていうかこんなに泡飛ばしながら頭洗う人初めてみたと類は苦笑した。
「そうか?」
「うん。一生続けたら多分禿げるよ」
「ま、真か!」
目を見開いた幸村は、さっきと打って変わって優しく洗い出す。やっと手加減をし始めたようだ。
「ってかさーずっと気になってたんだけど、何でお金ぶら下げてんの?」
「金?あぁ、これのことか?」
じゃらりと幸村は胸にかけた紐を揺らした。
「これは六文銭と言うて、あの世へ行く際に必要な三途の渡し賃なのだ」
「三途の渡し賃?三途ってあの世とこの世の間の川の?」
うむと青年は答えると、シャワーでシャンプーを洗い流し始めた。
「えー何でそんな縁起悪いの持ってるわけ?」
「六文銭は真田の家紋であり、某の覚悟でもある」
覚悟?と類は不思議そうに聞き返す。
「そうだ。死をいとわぬ不惜身命の覚悟にござる」
「よくわかんねぇけど、いつ死んでもいいですみたいな?」
その通りだと頭を縦に振ると、幸村はボディソープをタオルにつけ始めた。
「当然であろう?戦場で死ぬが武士の定め」
背中を向けていたので、どんな表情をしているのかは分からなかった。でも、低い声音だったことは確かで。
類はその言葉に目を丸くすると、深く息を吐いた。
「なあ幸村、今の絶対姉貴に言うなよ」
「何ゆえだ?」
「それ聞いたらあいつ泣くから」
振り向いた幸村は心底不思議そうに首をかしげた。そして何故、と問う。
「何故何故うるさい!もー自分で考えろよ!」
「な!逆上しなくてもよいだろう!」
「したくもなる!」
類はぐしゃぐしゃと頭を掻き、ため息をもらした。
その時、思い出したように幸村が口を開く。
「誰かに似ておると思っておったが、そうだ!お主佐助に似ておるのだな!」
「何ナルトの話?うちはサスケ?」
「猿飛佐助だ!真田家抱えの忍にござる」
「うっそ!ほんとにいたんだ忍者!ってかそのサスケと俺のどこが似てんの!?」
難しい顔をして考え込んだ幸村。そして口を開く。
「…口調?」
「喋り方かよ!」