走れ17歳!
「うあー寒っ!」
「無論!神無月は冷えるものでござる」
からからと笑った幸村は、薄着なのに相変わらず飄々としていた。
「何寒くないの?」
「もちろん!椿殿とは鍛え方が違うのだ」
「ははーん!子ども体温だから寒くないんでしょ」
「な!某は大人でござる!」
「いーやそうです!幸村がいたら布団すっごい温かいもん」
「な、は、は破廉恥!」
立ち止まると、顔を真っ赤にしていく幸村。椿はうわあ真っ赤!とけらけら笑ってみせた。
「な、椿殿某をからかったのか!?」
「どうだと思う?」
にやりと笑った椿に、幸村は年上をからかうでない!と眉を釣り上げるが、赤い顔でそんな表情しても説得力も何にもない。それに年上っていったって数ヶ月の差でしょうが。
「あははごめーん!」
「何と軽い謝罪!」
もういいでござると眉を寄せ前を向いた幸村は、とてつもなく可愛かった。
「怒った?」
「怒っておりませぬ」
「…ごめん。私が悪かった。私が悪かったから怒らないでよぉお。うぅうああ!」
「な!なな泣かないでくだされ椿殿!幸村は怒ってなどおりませぬ!」
足元にうずくまってみせると、急に声音が優しくなる青年。同じようにしゃがみ込んだが、どうしていいのか分からず立ち往生している。
「幸村あ」
「女子を泣かせてしまうなど男の恥にござる!真にすまぬと思うておる!頼む!どうしてよいか分からぬ!泣き止んでくださ…むむ?何故肩が震えて?…お、お主泣いておらぬではないか!」
はっとして立ち上がる幸村。そしてまた顔を赤く染めていく。椿はしてやったり顔で笑うと、青年の顔を見て堪えきれずに噴き出した。
「お主騙したな!」
「あんな下手な泣きまねで騙される幸村が悪いんだよ!ってか今の幸村めちゃくちゃ可愛かったんだけど」
「か、かわ…!そのような言葉は女にかけてくだされ!」
「怒ってる幸村もかわいい!」
「…っ!性懲りもせず、またからかう!某も男!いい加減怒りますぞ!」
よし!男なら勝負よ!と椿は不敵に笑った。
「勝負?」
コンビニまでの一本道どっちが速いか競争!私に勝ったら男と認めてあげましょう!じゃ、はい!スタート!
早口でそう言い切ったと思えば、椿は相手の返答を待たずに走り出した。足には自信があるのは本当らしく、駆け出した背中はすぐに小さくなっていく。
「…お!椿殿は足が速いのだな…とそんな悠長なこと言ってられぬ!追いかけなくては!」
数秒遅れてはっとした幸村も、思い切り地を蹴った。
「元陸上部の私に勝てるかな!あはは!悪いけどそう簡単に男とは認めてあげないよー!…ってあれ何だろ?車?いや違う!あれは、幸村ぁあ!?」
秒速チーターレベルで追いかけてくるのは誰でもない、うちの居候兼戦国武将殿だった。軽く人間じゃない。むしろ物の怪?妖怪?いや校内七不思議都市伝説レベルだ!
「みなぎるぅぁああ!」
「うわぁあああ!怖ぁあ!」
走れ17歳!