「ね、冠葉くん。手…つないでくれる?」
空が暗くなり始めた頃、斜め後ろを歩いていた女が唐突に言った。
問いに答えず振り向いた冠葉は理解する。
女は自分の前から消えようとしている
決意や寂しさ、渇望を女は照れ笑いで覆い隠そうとしている。
いっぺんの優しさが、絶望に変わる瞬間を知っている。
それでも冠葉は一瞬迷う。迷ってしまう。
「…冗談だよ」
冠葉は自分を追い越し歩き始めた女の背を見つめせめてもと女を祈る。
【 どうか 】