冠葉の背中を見ながら、ふとその背中に這う女の指を思い浮かべた。
(僕は一体なにを考えているんだ)
思春期にそういうことに意識がむきがちだということは知識として知っている。
しかしいざそれが自分におきると、晶馬はどうしていいかわからなくなった。
彼にはまだ、恋する気持ちがわからない。
まるで恋愛が彼の周りにだけ存在するようだ。
冠の大量の恋人たち、
多蕗とゆりさん、
そして、彼女――
「ちょっと!晶馬くん聞いてる?」
冠葉から目を離すと、苹果がぷくっと頬を膨らませてこちらを睨んでいた。
「ごめんごめん」
「ごめんは1回でしょ!」
「ごめんってば」
もう晶馬くんってば、とぷりぷり怒る苹果の声にはどこか嬉しそうな気配が混じっている。
多蕗の元ストーカーは、今は自分のストーカーになった。
運命は破られた。
多蕗を盲目的に愛そうとしていた苹果は、自分の運命を受け入れたのだ。
それができる人間は少ない。
彼女はそうして、美しくなった。
何の飾りもなく、シンプルに気持ちをぶつけてくる苹果。
その思いに応える日がくるかどうかはわからない。
彼女かもしれないし、そうではないかもしれない
僕も、いつか…