その日は一段と簡単だった。
笑顔を作れば赤くなり、誘いをかければ頷いた。
横を歩く少女のつむじを見る。
(右回りだ)
そんなことを考えながら、彼女を優しく引き寄せた。
「嬉しい…!夢みたい。ずっと憧れてたの」
俺に?恋に?それともそのどちらでもない幻に?
頬をほのかに染めて、彼女はうっとりと語りだす。
茶髪のゆるい巻髪
つけまつげにアイライン
ミルキーな唇に
女の子らしさを演出するコロン
全てが普通だった。
自分では気づいていないのだろうか。
それとも意識的にこうなったのだろうか。
雑誌や友人を参考にして。
「本当にずっと、大好きだったの」
彼女は幸せの絶頂にいた。
しかし彼女の感情が高ぶるのに反比例して、冠葉の頭は冷静になっていった。
哀れな女。
己を道化とわかっている自分が口に出していい言葉ではない。
「馬鹿な女」
呆れたように笑って口に出してみると、その言葉はやわらかく包み込むような響きをおびた。