快眠ノススメ | ナノ
一人の時、己を抱き締める様に丸まって眠るのはトサカ丸の癖だ。
それに気付いたのは初めて一緒に眠った日(敢えて言わせてもらうが性的行為は皆無だ)。
普段、化猫屋で昼寝している時とは違い、トサカ丸から良太猫にくっ付いてきたのだ。
そこに不純な動機が全く存在しないのが良太猫とは違うのだが。
隣に誰かが在る事をトサカ丸は当たり前の事と受け入れた。
つまり、慣れているのだ。
慣れる事はなんら問題では無い。
良太猫も恥ずかしがるトサカ丸が見れなくて残念とは思っていない、少ししか。
只、それを慣らしたのが良太猫では無い事が問題だった。
良太猫では無いのなら誰なのか。
そんな事は考えなくても…むしろ彼等しかいない。
トサカ丸の兄妹、黒羽丸とささ美だ。
次の日、目を覚ましたトサカ丸に開口一番良太猫が問い質したのは想像に容易いだろう。
そして寝惚けながらもトサカ丸が答えたのは。
『ガキの頃から、ずっと三人で寝てたから』
納得するしか無かった。
だが、それなら一人の時あの姿勢で眠るのはおかしくは無いだろうか?
『だって…一人、寂しいだろ』
素面では絶対に教えてくれないであろう本音。
予想以上の、実に甘え慣れた次男坊らしい答にこれは益々手離せねえっす!と良太猫の決意も改まる。
が、更に浮かぶ疑問。
まさか、今も兄妹と共に寝てるんじゃあ?
『あー…母さんが、ウザイから黒兄達って、そんなことないのに、でも、そっから一人』
半ば閉じかけの目蓋を小さく何度も瞬かせるトサカ丸の答が段々と夢現になっていく。
ここぞとばかりに良太猫は問を続けた。
でも、一人は寂しいと?
『オレ、寝れなくて、ささ美のとこ行ったら、黒兄怒って、でも黒兄のとこ、行くと、ささ美怒るし』
この仲の良さが三羽の強さでもあるのだが、如何せん恋人の良太猫としては気が気でない。
あの兄妹を如何にしてトサカ丸離れさせるか、目下最大にして最凶の悩みだ。
『だから、母さん、作ってくれた』
そんな良太猫の内情に気付く気配も無いトサカ丸の目蓋は完全に幕を降ろした。
『ぬいぐるみ』
そんな可愛い単語を残して。
…………ナンダッテ?
この時の良太猫の衝撃は喩えようの無い物だった。
なんせ頭の中では小さいトサカ丸から大きいトサカ丸まで、それぞれがぬいぐるみを抱き締めて笑っていたり眠っていたり拗ねていたりと大忙しなのだから。
勿論、ぬいぐるみは猫で。
見たい。
とても見たい。
むしろ、ワシは恋人なんだから見て当たり前、否、見るべきっすよねっっ!
そんなこんなで、今、何時もの様に化猫屋に遊びに来たトサカ丸の目前には大きな猫のぬいぐるみが突きつけられていた。
その大きさ、実に良太猫実寸大。
渡されたトサカ丸より、周りで見ていた三郎猫達の方がドン引きだ。
「どうしたんだ、これ?」
とりあえず、と受け取ったぬいぐるみを両腕で抱えたトサカ丸が首を傾げる。
「っっ…せ、折角来てくれてるのにいつも待たせてやすから、だからワシの代わりっす!」
相乗効果万歳!!!と思わずにはいられない抜群の破壊力(一部限定)の片鱗を見せつけられた良太猫は色々とヤバい己をなんとか抑えて前もって用意していた言葉を重ねていく。
「オレ、待つのやじゃねえぞ?」
それも間違い無くトサカ丸の本音であろうが、良太猫は引かなかった。
「ワシが嫌なんでさあ。トサカ丸を一人にしたくないっすから」
これも本音だ。
ぬいぐるみを抱き締めて眠るトサカ丸を見るのは結果であって、それまでの過程にだって嘘は無い。
だから、良太猫は続けた。
トサカ丸が、端から断るとは思ってはいないが、確実に断れない様に最後の罠を仕掛けるのだ。
トサカ丸が好きだと云う濡羽の瞳を僅かに細め、じぃと見つめてニコリと笑う。
「ワシがトサカ丸の為に選んだコイツ…可愛がってくれやすよね」
さてさて、結局。
その大きな茶ぶち猫のぬいぐるみはあの日から良太猫の部屋に居座っている。
時々、化猫屋の控室にも現れて組員を和ませてくれている。
そこまで考えが至らなかった良太猫がヤキモキしていたりもするのだが。
それはつまり、そういうこと。
20110628.深結
「快眠ノススメ」
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