Who is LOVER? | ナノ



「おはよう、トサカ丸」
 目を覚ますと、視界一杯に大好きな人。
「…お、はよ?」
 でも、あれ、おかしくないか?
 オレ、何時、眠った?
 っていうか、昨日は良太猫に会ってないような気がするんだけど。
「良太猫…オレ、なんで…」
 体を起こそうとして、漸く、漸く異変に気付いた。
「は?あれ、え、ちょ…」
 両手、両足、見事に全く動かねえ。
「動いちゃだめっすよ。傷が付いたら大変でさあ」
 え、なんで?
 なんで、オレ、縛られてるわけ?
「済まない、トサカ丸」
「出来るだけ痛くない様にしたけど…解くのは無理よ」
 不意に横から聞こえた、聞き慣れ過ぎた声。
「ささ…美?黒兄?なにして…良太猫?」
 不安になって見つめた先は濡羽の瞳。

「大丈夫」

 映したオレを閉じ込めるかの様に。

「今日は四人で」

 闇の奥に確かな炎を揺らめかし。

「愉しい事を致しやしょう」

 その瞳は薄らと細められた。










 ぐちゅり。

 響く水音を奏でる六つの手。
 聞きたくない。
 今直ぐこの耳を引き千切って。

 とぷり。

 溢れる水液に絡まる三つの赤い舌。
 見たくない。
 今直ぐこの目を握り潰して。

 ああ。

 濡れた声を上げる、オレ。
 啼きたくない。
 今直ぐこの喉を焼き焦がして。

 お願いだから、今直ぐに。

「や…め、」
「ないわよ。これは私達が望んだ事」
 鈴、としたオレに囁くささ美の声。
 皆は冷たい声だって言うけど、何時もからかうオレに怒ったりしてるけど、オレが泣きそうな時は何時だって慰めてくれる事、暖かい事、ちゃんと知ってる。
 だけど。
「トサ兄だって、気持ち良いのは好きでしょう?」
 こんなにも凍り付いてしまいそうな声なんか、オレは知らない。
「今だけだ」
 凜、としたオレを見下ろす黒兄の瞳。
 皆は怖い瞳だって言うけど、何時も調子に乗るオレに呆れたりしてるけど、オレが困った時に一番に気付いてくれる事、優しい事、ちゃんと知ってる。
 だけど。
「お前は何も考えるな」
 こんなにも切り刻まれてしまいそうな瞳なんか、オレは知らない。
「っ、ゃ…だ、いやだ……ぅた、りょ、た…ねこ」
 たすけて。
 こんなのおかしい。
「トサカ丸」
 良太猫の声。
 暖かくて、でも力強い、オレを簡単に溶かしてしまう、甘やかな声。
「良い子だから」
 良太猫の瞳。
 優しくて、でも意志の強い、オレを簡単に溺れさせる、真直ぐな瞳。
「もっと、鳴けるはずでやしょう?」
 良太猫の指。
 頬に触れる指先は暖かいのに。
 鋭い爪は隠しているのに。
 触れたとこから、体中が引き裂かれる。










 着物は疾うに役割を放棄して、腕や足に絡まっているだけで。
 無遠慮に肌を這いずる六つの手と三つの舌。
 何時もなら、一つの赤い舌、二つの白い手、十の丸い指先がオレを翻弄するはずなのに。
 どうして。
 これは、二人だけの内緒事だって。
 これは、一番好きな相手とだけの秘め事だって。
 そう教えてくれたのに。
「…うそ、ついたのか?」
 こんなにも弱々しい声が、オレから出ているなんて信じられないけど、オレの思った事を話すんだから、きっとこれはオレの声。
「トサカ丸に嘘なんか吐くわけないっすよ」
「でも!これ、は、いちばんすきな…」
「そう。ワシ等は皆同じなんでさぁ…一番好きなのはトサカ丸だから」
 口唇に触れる温もりは。
「俺達の一番好きなものを共有する事にしたんだ」
 黒兄?
「だからね、トサ兄。私達に頂戴」
 ささ美?





「「「 あいしてるから 」」」





 オレを好きな、


 オレの好きな、


 オレが一番好きなのは…










  誰 ?




















「っていう夢を見たの!」
「な!?な!なっ!!なに勝手に人の許可も無くトサ兄の夢なんて羨ましいもの見てるのよ、凛子っ!!」
「ささ美のツッコミ処そこなの?まあいいけど…でね、このネタ次の裏通信に載せても良いよね?最近トサちゃん人気だしー」
「良いわけあるか!この腐れ白蛇ーーっ!!」










20110831.深結
「Who is LOVER?」








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