天王星と見る夢


あと数ヶ月もすれば、私たちに家族が増える。暗い部屋の中で、すっかり大きくなったお腹を抱え、背中に絶えず降りかかってくる暴力からひたすら耐える。私たち、ではない。私に、家族が増えるのだ。可愛い可愛い、宝物。この人にとっては、ただのお荷物なのかもしれないけれど。


『ぐっ・・・あ!あああ!』


突然、暴力が止んであの人が叫び声を上げた。ボウっと爆発するように青い炎が上がる。日が沈み、暗くなっていた部屋が青に染まる。あの人の身体から、とても綺麗な青い炎が。そういえば、この人はなかなかの実力がある人だと聞いたことがある。それなのに今、こんなにも綺麗なものに身を焼かれ、悶え、その命を尽きさせようとしている。


『――さん?』


その人の名を呼ぶ。しかし、返事が無いまま絶命。その青い炎も燃え尽きてしまった。
大切な人が居なくなった。大切な人を守る事が出来た。喜んで良いのか、悲しんだ方が良いのか分からないまま、私の平穏は何処かへ行ってしまった。それ以来、暗いところが、夜が嫌いになってしまった。


「おはよう、母さん。もう夜だけど。」

「うん、彗。おはよう。」


娘の挨拶は、いつもそれだった。夜、寝るのが怖くなった私が昼夜逆転の生活になってしまうのは、必然なのかもしれない。
娘は愛想が無いから、いつも何をしているのかあまり話してくれないけれど、メフィストさんから色々な話は聞いている。最近、祓魔師になるために塾へ行き始めた事。何故、祓魔師になりたいのか。
私はこんな風に、ダメな人間になってしまったけれど、娘はきちんと生きているようだ。


「・・・。」

「・・・彗?」


今日の沈黙はいつもと違うような気がして、声をかける。こっちを向いた目は、何かに迷っている、困惑しているようだった。


「何か、悩み事?」

「・・・。」

「うーん、こういう時は、美味しい物を食べるのよ!久しぶりにお母さんが、」

「い、いいよ、もう食べたし・・・ちょっと、散歩行ってくる。」

「そう?」

「ありがとう。」

「いいえ。悪魔には気をつけるのよー。」

「ここでは出ないよ。」


そう言いながら、彗はソファにかけてあった制服のポケットから紙を取り出して、家を出て行った。


私は燐の事をどう思っているのか。答えは沢山あるようで、一つに絞られようとしていた。それでも、その答えに辿りつくのが恐ろしくて、認めたくなくて、また一から問答を繰り返す。
最近、いつもこの事を考えていた。まだ答えは出ていないのに、どこか気恥ずかしくなって燐の顔が見られなかったり、書庫に行っては燐と一緒に帰るのを避けている。これでは失礼だとは思うのだけれど、どうにも恥ずかしい。
こんなにも、たった一人の事を考えるのは初めてだ。自分の中の気持ちを認めるのが、こんなにも恐ろしく思えるのも初めてだ。


「(認めても良いのだろうか。)」


神様だと思っていた人は、接していくうちに神様ではなくなってしまった。そう、ただの同級生の男の子。私は、私の中の神様を好きになったのではなく、奥村燐を好きになったのだ。そう考えれば、妙に頭がスッキリしてきた。今までがぼうっとしすぎていたのかもしれない。答えの簡単すぎる問題を、妙にこねくり回していた所為だ。
家へ帰ろう。そして、母さんに何かを食べてもらわなくては。チャンスがある時に食べさせないと、栄養が摂れなくなってますます青白くなってしまう。あれ以上病的な外見になるのは御免だ。


「・・・あれ?」


考え事をしながら歩いていたせいか、森の方面へ来てしまっていたようだ。舗装された道には、まちまちと街頭があるが、心もとない。
振り返って、来た道を行こうとする。が、そこには道が無かった。塞ぐようにして、木が立っている。ひゅ、と何かが空気を裂いて、手首に絡みつく。見ればそれは、つたのような物だった。上を見れば、ギラギラと光る目。


「・・・っ!」


私は人生で初めて、天にも届きそうなほどの悲鳴をあげた。ここ最近、人生で初めてのことが多すぎて、疲れてしまう。
20110927
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