ろぐ


イングランドの夜は冷える。
雨が降った日には、塗れた石畳に冷えた空気がぶつかって、体感温度はさらに低下する。
そんな日は、古傷が痛んだ。

ふぅと白い息を吐き出して見上げた空には、丸い月が顔を出していた。
星は、煌々としている月明かりのせいなのかほとんど見あたらない。
しばらく立ち止まってそれを見上げていたけれど、背中にぶつかる追い風に急かされるように足を動かした。

片田舎のこの街では、日付を越えた深夜にはほとんど誰も出歩かない。
日付を跨いでバカ騒ぎが起こるのは、たいてい地元サッカーチームが勝利をおさめた日くらいだ。
とても、静かだった。
街灯の明かりが灯る石畳に、俺の歩く足音だけが響く。


赤いポストの前で立ち止まる。
こんな深夜に出歩いた理由は、この目の前のポストに用があったからだ。
しかし、ここにきて戸惑う。
ポケットに入れていた手が、同じくポケットに入れていた紙に触れる。
やっぱり出さずに引き返そうか。
そう思うものの、俺の足は動かない。

吐いた息が、白く空に上っていく。

なぁ、後藤。
俺は今、ここにいるよ。
形は変わってしまったけれど、今でもサッカーを続けてる。
お前はこんな俺を、忘れてしまっているだろうか。

ポケットの中身を取り出して、そのまま確認することもなくポストに投函した。
いつまでも悩んでるなんてらしくない。
そういって笑う人は、今隣にいないけれど、届けばいいと思う。
葉書には、最低限のことしか書かれていない。
それでも彼には伝わると信じている。
だから、それだけ。

俺は昔も今も、サッカーが好きだ。
それはお前もだよな。

くるりと方向を変えて歩きだす。
明日も一日、サッカー日和になるのだろう。


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10.12.05

ゴトタツ風味。
イングランドにて。



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