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*年齢操作。高校生。


部活が終わり、適当に汗を拭って制服に着替える。
がやがやと五月蝿い部室内から、ちらほらとおめでとうという言葉を貰ってありがとうと返すのも、今日は一体何度目だろうかと金太郎は思う。
4月1日。今日はいわゆるエイプリルフール。そして、金太郎の誕生日でもある。
先輩から、同級生から、後輩から。
様々な人たちから祝われ、時にはプレゼントも貰い、そしてそんな今日もあと数時間で終わりを迎えようとしていた。

「ほな、また明日!」

ひらりと手を振って、暑苦しい部室のドアに手をかける。
ちょうどその時、制服のズボンのポケットに入れっぱなしにしていた携帯が着信を告げて震えているのに気付いた。
部室を背にして歩き出し、テニスバッグを抱え直してポケットに手を突っ込む。
未だ震えている携帯の液晶画面には、遠距離恋愛中の彼の名前。
滅多に向こうからの連絡なんてないものだから、慌てて通話ボタンを押した。

「もしもし!?」
『ちょ、うるさい』

呆れたような声が、電話越しに聞こえてきて思わず苦笑する。
リョーマとの電話では、必ずこの言葉が一度は返ってくるのだ。
気をつけなくては、とは思っても中々直るものではない。

「すまんすまん。つい」
『そろそろ学習しなよ。元々声でかいんだから』
「はーい」
『分かってないだろ』
「分かっとるって!で、どないしたん?リョーマから電話とか珍しいやん」

広い校舎内。校門に向かって歩く。
もう4月だとは言っても、夕方になるとやはり気温はぐっと下がる。
電話を持たない右手を、ポケットに突っ込んだ。

『…別に』
「なんもないと電話なんてせぇへんくせに」
『ねぇ、』
「んー、何?」
『…今からさ、そっち行くって言ったら、どうする?』
「…はい?」

耳に届いた言葉が信じられなくて、つい聞き返してしまう。
だから、と先程と同じ言葉が受話器越しに聞こえてきてやっぱり聞き間違えじゃなかったんだと再確認。

「は?え、なに、今から…?」

いやもちろん大歓迎やけど、なんでまた急に。
そう伝えようとした。
そして一歩校内から踏み出した瞬間。

「うそだよ」

二重で聞こえてきた声に、ばっと振り向く。
学校の名前を掲げている校門の石垣に背を預けてすらりと立つ男。
そこにいたのは、ずっと会いたかった人。

「もういるしね」

携帯を片手に固まっていると、それが可笑しかったのかふっとリョーマが笑った。

「馬鹿みたいな顔」

そう言って金太郎の顔を覗き込むようにして顔を覗き込んでくるリョーマを、やっと頭で認識する。
じわりじわりと胸の奥が温かくなっていくような気がした。

自分の携帯をポケットに仕舞った後、リョーマは金太郎の左手に握られている携帯の電源ボタンを一度押してはい、と手渡した。
それを与えられたままに受け取って、リョーマのまねをするようにポケットに滑り込ませる。
自由になった両手で、目の前にいる大好きな人を力いっぱい抱きしめた。
ここに、いる。
中々会えなくて、たまの電話が嬉しくて、今日も会いたいと思っていた。
その彼が、今腕の中にいるのだ。

「なんで?」
「お前、誕生日だろ、今日」
「そう、やけど。まさか来てくれると思わんもん」

いつもなら恥ずかしいやら、痛いやら文句を言う口から与えられた言葉は、金太郎を幸せにするものだった。

「誕生日、おめでとう」
「ありがとう…!」

数年前まではほとんど変わらなかった身長も体格も手の大きさも。
成長するに従って、金太郎のそれらはリョーマよりも大きくなった。
自分が彼を守らなければならないからだと、金太郎はそう思っている。
そっと抱き締める腕の力を緩め、今度は彼の手を握った。
そしてリョーマの手を曳いて歩き出す。

「遠山…?」
「はよ、帰ろ」

うん、と頷いたリョーマを横目で確認して、歩を進める。
手を繋ぐことにも慣れていないからだろうか。
少し挙動不審に視線を泳がせて、それでも手を振り払う事はしない。
それがまた嬉しくて、ぎゅっと握る手に力を込めた。
なんて幸せな誕生日だろう。
にやける顔を抑えきれずにいると、リョーマは気持ち悪い、と赤い顔で呟いた。


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11.04.01



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