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*現パロ 竹くく・食伊前提、竹谷と食満


コンビニ独特の有線ラジオが流れる店内には、俺一人しかいなかった。
この時間一緒にシフトに入っている店長は奥のバックルームで作業中。
客は、先程まで雑誌を立ち読みしていた男が缶コーヒーをひとつだけ買って帰ったところだ。
雑誌コーナーには、多くの人が立ち読みした本が乱雑に並んでいた。
本当ならそれを整理整頓するのも俺の仕事だけれど、今はそんな気分じゃない。
ちらりとレジに表示されている時間を見ると、すでに午前0時を過ぎていた。
小さく舌を打つと、それは人のいない店内に小さく響いた。

店の電話が鳴ったのは今から1時間ほど前。
本来なら、俺は23時上がりだった今日。
俺と交代でシフトに入る3つほど年上の男からの電話はその男のトラブルを伝えるもので、1時間ほど遅れるというものだった。

(つーか、俺だってとらぶってんだよ)

なんて言えるわけもなく、俺は時間外労働中だ。

誰かの入店を知らせる音が鳴った。
いらっしゃいませ、と顔を上げて入り口に目を向けると、そこには見知った顔がよぉと手を上げて笑っていた。
少しだけ頭を下げて挨拶した俺を笑顔のまま一瞥して、男は店内を物色し始める。
あまりその様子を眺めているのはよくないだろう。
どうせレジに来たら何を買うのかなんて一目瞭然なのだけれど。

手持無沙汰に、レジ前に並んでいるチョコ菓子やライターの乱れてもない配置を弄る。
そんなことをしている間に、買う物が決まったのだろう。
大して時間などかからず、店内を物色していた男はレジ前に現れた。

「珍しいな、お前がこの時間シフト入ってるの」
「あー、次のやつが遅れてくるんすよ。食満先輩こそ、珍しいっすね、こんな時間にコンビニ」
「仕事帰りだよ。この時期は忙しいんだ」

肩をすくめて言ったその一言に、スーツ姿だったことを納得した。
鞄は停めた車の中なのだろう。
スラックスのポケットから黒い財布を取り出した先輩を横目に見ながら商品をレジに通す。

「あ、悪い竹谷。これも追加な」

先程並べ直したところのチョコ菓子をレジ台に並べて先輩は笑った。
さっきから思っていたが、先輩がレジに持ってきたものは全て2つずつ。
缶ビールやサンドウィッチに混ざって、プリンとシュークリーム。
そしてプラスで買い足した小さなチョコも2つ。
理由は聞かなくてもわかる。

「相変わらず、仲いいっすね。これ全部伊作先輩の分でしょ」
「あぁ、あいつから甘いもん食べたいってメール来たから」

2個ずつ買うってことは、あんたも相当甘いもの好きだろ、と思ったが口には出さなかった。
先輩の顔がとても優しそうに笑っていたから。
ぼんやりといいなぁと思う。
この人たちは、いつ見ても幸せそうだ。
俺の知らないところではいろいろあるんだろうけど。
でもそれを悟られないくらいに、楽しそうに笑う彼らを見ると羨ましくなる。

「お前は?うまくいってんだろ」
「喧嘩中」

へぇ、と驚いた顔にばつが悪くなる。
何も悪いことはしていないのに。
気まずさから、商品をビニール袋に入れるのが乱雑になってしまった。
これくらいは大目にみてもらおう。

「ま、さっさと仲直りしろよ。どうせしょうもねぇことだろ」

返事のない俺を見て、図星、と笑った先輩にビニール袋を差し出す。
愛想のない店員とはまさに今の俺のことをいうのだろう。
不貞腐れたように袋を差し出した俺に先輩は文句を言う事もなく、じゃあなとそれだけを告げて店を出て行った。
すぐにエンジン音がして車は駐車場から消える。
明かりのついた温かな部屋に、愛しい人のいる寝室。
それはそれは幸せだろう。
はぁ、息を吐き出して思う。
俺も早く帰りたいと。

兵助の好きな杏仁豆腐は、まだ2つ残っていただろうか。
帰ったら杏仁豆腐を2人で食べよう。
もしも兵助が寝ていたら、そっと隣に潜り込んで眠ろう。
デザートは、明日の朝にでも食べたらいい。
一言、ごめんと添えて。
沈んでいた気持ちが、いつの間にか軽くなっていた。


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11.02.19




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