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*白石視点。ちとくら前提。


「なぁ、金ちゃん」

白石たちとまた一緒に試合がしたいからと、中学時代とても可愛がっていた後輩が同じ高校に入学してきたのは今から2ヶ月ほど前のこと。
すっかり昔を取り戻したようにみんなで笑いあう姿にも、もう違和感はどこにもない。
ただ、成長期まっただ中な金太郎の身長には未だに少し驚かされるのだけれど。
今日の部活も終了し、部室で制服に着替えていた金太郎を呼びかけたのは、昨夜東京からかかってきた電話の内容を思い出したからだ。

何?と大きな目をぱちぱちと瞬かせてこちらを見上げる金太郎に(まだ少しだけ俺の方が背は高い)、小さく笑いかける。

「金ちゃんは、越前くんのどこが好きなん?」

はい?と間抜けな声を出したのは問いかけた金太郎ではなく、俺の隣で着替えていた謙也だった。

「謙也、お前その格好でそんな間抜けな声出してたらほんまに阿呆みたいやで」

頭からすっぽりとTシャツをかぶって頭を出していないその姿はいささか亀を見ているようだ。
すぐにすぽんと顔を出したけれど。

「うっさいわ、ユウジ。ちゅーか、白石お前突然何を言い出すかと思えば」
「そんなこと言うて謙也くんかて、気になるんと違う?金太郎さんと越前くんの馴れ初め」

胸の前でハートを作り、楽しそうに笑う小春に反論できないところを見ると、結局は謙也も気にはなっているらしい。
謙也に集まっていた視線は、謙也が黙り込んだことによって未だ答えを発しない金太郎へと移った。
部室中から集まる視線を物ともせず、金太郎はうーんと考え込むように首をかしげる。

「そんなこと急に言われたかて、好きなもんは好きやしなぁ」

いつでも元気な金太郎にしては珍しく、ぼそりと呟いたその言葉に少し驚く。
すぐに答えを提示されると思っていたからだ。
金太郎は「こうだから好き」とよく言葉に表す。
テニスは楽しいから好き。
たこ焼きは美味しいから好き。
俺たちに対しては、面白いから好き。
全て金太郎本人の基準で成り立っているので、俺たちにはどの一定から「好き」になるのかは分からない。
今回も今までどおり越前くんのことも何かのきっかけがあるから好きなのだろうと結論付けていた。
けれど、その定説は覆ってしまったらしい。

金太郎の答えに驚いたのだろう、部室の空気が一時止まった。
それまで黙って成り行きを見つめていた千歳が金太郎の目の前に移動する。
3年前まで、金太郎と目を合わせて話すために膝を折っていたその長身は、今はその足を折ることはない。
あぁ、この子はしっかりと成長していたのだと、今その光景を客観的に見ることですとんと心に降ってきた。

「金ちゃんは、越前くんが越前くんやから好き?」
「んー、コシマエと一緒におったらめっちゃ嬉しいねん。それって好きってことやろ?」
「そうやね。ドキドキする?」
「めっちゃする!あ、でもドキドキするけどわくわくもすんで!あと、安心する」
「安心?」
「なんかなー、ドキドキするのにほっとするん。あれ、めっちゃ不思議やんなぁ」

けらけらと笑って千歳を見上げるその表情はどこかまだ幼い。
でもやはり、その笑顔も俺の知る3年前より成長しているように感じて少し寂しいのだ。
千歳も同じように感じているのだろうか。
微笑むように優しく笑うその顔の、眉は少し下がっている。
ふと周りを見渡して見ると、ぽかんと口を開けて固まっている者もいれば、関係ないというように着替えを再開した者。
うんうんと頷く者もいれば、興味深そうに笑みを深める者もいた。
その様子が面白くて思わずくつりと笑みがこぼれる。

「金ちゃんは、ほんに越前くんのこと好いとうね」

聞こえてきた声に、視線を元に戻した。
練習でたくさん飛び跳ねてくしゃくしゃになった赤毛の上を千歳の大きな掌が撫でつけるように動く。
その手がとても穏やかなものだから、少しだけ羨ましいだなんて思ってしまった。
それを誤魔化すように声を出す。
これも本心だ。

「ほんまになぁ。金ちゃん、こんなに大きくなって」
「なんや、千歳も白石もおとんとおかんみたいやで!」

すぐさま切り返された金太郎の言葉に、ぶっと噴き出したのは謙也だ。
笑いが止まらないのだろう謙也は、肩を震わせながらしゃがみ込んだ。
彼のツボはよくわからない。が、周りも笑いを堪えているところを見ると彼らもそう思っているということだろうか。
不本意だ。
なのにあまり嫌な気がしないのは、きっと相手が千歳だから。

「あ、でもな、俺、コシマエの笑った顔めっちゃ好きや!すごい綺麗やねんで!」

そんな周りを気にすることなく言い放った言葉に、俺はもう一度昨日の電話口の声を思い出した。
嬉しそうに話すその口調は、きっと今の俺と同じ心境だったのだろう。
今なら分かる。

隣に立つ千歳を見上げると、千歳もこちらを見ていた。
目が合って、互いに笑いあう。

弟のように可愛がっていた金太郎が恋をした。
少しだけ、心配だったのだ。
心配は無用だったみたいだけれど。

「越前くんはな、金ちゃんの笑顔が好きらしいで」

そっと耳元で伝えた言葉に、少しだけ大人になった金太郎が顔を赤く染めた。


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11.02.09




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