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風呂上がり、タオルでがしがしと頭を拭きながら部屋に戻ると謙也さんが俺のベッドに寝転がり雑誌を読んでいた。
こちらを振り向くことなく「おー、おかえりー」と間延びした声が耳に届く。

そのまま真っ直ぐにベッドに歩み寄り、ぽすんと謙也さんの足元に腰掛ける。
ベッドのスプリングが軋んで、キシと音を立てた。

「謙也さん、それおもろいっすか」

謙也さんが先程から真剣に眺めている雑誌は、俺が先週帰り道にコンビニで買ったファッション雑誌だ。
毎月必ず買うわけではないけれど、新しい服が欲しい時や季節の変わり目にはつい買ってしまうそれは、確か俺が風呂に行く前までマガジンラックの中に収まってたはず。
そして系統的に、謙也さんとは異なっていると思うのだが。

「んー、おもろいっていうか、これ光着たら似合うやろなぁて…」

相変わらず俺を見ようとせずに、手元に目線を落としたまま言葉を発する謙也さんがそこまで言ってからはっとしたように俺の顔を見た。
心なしか、焦ったような表情がほんのり赤く染まっている。

「かわええこと言うてくれるんですね、今日は」
「なっ、なし!今のはなしや!」
「残念。聞いてしまったもんはもうなしにはできません」
「忘れてやぁ」

ぽいと雑誌を横に放り投げて、謙也さんは枕に顔をうずめた。
うあー、という籠った声が聞こえてくる。
忘れるわけないやろ、阿呆。
その言葉は心の中に秘めて、止まっていた手を動かす。
ぽとりと、毛先から滴が数滴履いているスウェットの上に落ちた。

頭にあったタオルを肩に移動させながら、謙也さんを見る。
ばたばたと足を動かす素振りが子供っぽい。
うつ伏せになっている体の上に、何も言わずに乗っかった。

「うおっ」
「色気なーい」
「うっさいわ。つーか重い」

驚いたように肩を揺らした謙也さんを後ろからぎゅうと抱き締める。
逃げ場を塞ぐように。

「な、謙也さん、俺どんな服が似合うん」
「ちょ、それは忘れろ言うたやろ!」
「誰もそれを了承してないですやろ」
「光の阿呆ー」

何気ない会話が、好きだと思う。
俺はそんなに喋るのが得意ではないはずなのに、謙也さんを前にするとそんなことを忘れる。
楽しい、という感情が何よりも先にくるから俺は謙也さんの隣にいることをやめられない。

もぞもぞと腕の中で動いた体は、俺と向かい合うように正面を向いた。
さすがに真正面から体重をかけ続けるわけにはいかないので、少しだけ、右側に体重を移動させる。
目の前にある顔は、じっと俺を見つめて言った。

「光、髪まだ乾いてへん」

手を伸ばして、俺の髪に触れる謙也さんの手が温かくて思わず目を閉じる。
タオルドライは終わらしているから、すごく濡れているわけではないけれど、しっとりと水分を含んだ髪はまだ重量がある。
そんな俺の髪をそっと撫でる手つきはとても優しい。

「謙也さん、好きやで」

ふいに口から出てしまった本音はいつも思っていること。

「…ん、俺も好きやで」

まさか返事が返ってくるとは思っていなかった。
驚いて目を開けると、先ほどよりも顔を赤く染めた謙也さんが俺の腕の中にいた。
これが幸せっちゅうやつなんやろか。
呆けたような俺の顔が面白かったのか、謙也さんは笑った。

笑った顔が可愛くて、そっと額に唇を落とす。
くすぐったそうな顔が愛おしくて、今度は頬に。
そっと目を閉じた顔に引き寄せられて、唇が重なった。


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10.12.07



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