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*現パロ(高3設定)
世間の学生的には海だ、プールだ、祭だ、花火だとイベント盛り沢山なはずの夏休み。
大学受験を冬に控えた俺たち3年生には補講という名の地獄が待っていた。
「…暑い」
呟いたのは誰か分からないほどに、その言葉はすでに何度も繰り返されている。
太陽が照りつける屋上。
その給水タンクの裏の日陰で休憩を取っていた。
ただのサボり、ともいう。
「竹谷、お前ジュース買ってこいよジュース」
「なんで俺だよ。三郎が自分で買いに行けばいいだろ」
「えー、俺アイスがいい。ガリガリくんでいいよ」
「妥協してやったみたいな言い方すんな、ばかんえもん」
あー、と声を揃えて項垂れた。
ニュースでは真夏日真夏日と連呼される日々、というか今日は確か猛暑日だと言われていなかったか。
日陰にいてもこの熱気。
ここから動く気にもなれない。
がちゃり、と屋上の扉が開く音がした。
ここは死角になっているので、見つかりにくい場所。
一瞬どきりとしたが、まぁ大丈夫だろうと力を抜く。
その直後聞こえた声にびくりと肩が揺れた。
「あ、やっぱりここにいた」
雷蔵と兵助が呆れた顔でこちらを見ていた。
「お疲れー。つーか暑ぃ」
「えー、いつチャイム鳴った?」
「とっくに鳴ったよ、今日はもう終わり」
しっし、と手で俺らを追いやりながら、二人は日陰に入り込む。
やはり日向は相当に暑いらしい。
「お前らは馬鹿か。真面目に授業出ればクーラー効いてるんだから涼しいだろ」
「ていうかサボるならはじめから学校に来なければいいんじゃないの?」
「…その通りでございます」
当たり前に返される正論に反論することもできず、俺たちは視線を逸らした。
「帰り、涼しいとこ寄って帰ろうぜ」
竹谷と勘右衛門の二人はもうすでに頭の中を切り替えたらしく、この後の予定を立て始める。
カラオケ!駅前の新しくできたアイス屋!とりあえずコンビニ!
候補をいくつか指を折りながら数えている二人を見ながら、俺はできればダラダラできるところがいいなぁと考えていた、その時。
「却下」
兵助の凜とした声が響いた。
直後にええぇっ!?っと文句の声が上がる。
「ファミレスで勉強。はい、決定」
有無を言わせない雰囲気を纏う兵助と仕方なさそうに笑う雷蔵。
もう一度、先程と同じように文句をいう両隣。そして間に挟まれている俺。
「今日授業出てないぶん、遅れてるだろ」
「図書館じゃなくてファミレスっていうのが兵助の妥協点じゃない?ていうか君たち、サボってた分僕たちより課題多いよ?」
げっ、と顔を青くする竹谷に、あぁやっぱりねという表情をした勘右衛門。
ほら行くぞ、と腰を上げた兵助につられ、思わず全員が立ち上がる。
「最悪だ…」
「自業自得」
「ですよね…」
「まぁ俺は天才だから」
「三郎うぜぇ」
「俺パフェ食べよー」
「勘右衛門、悠長だね」
「俺も天才ですから」
「はいはい」
日陰から出るとそこは思った通りの灼熱で、額に汗がにじむ。
重たい扉を開いて、少しだけ太陽とさよなら。
ばたんと閉まった扉の向こうで、じりじりとコンクリートが焼ける音が聞こえた気がした。
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10.07.30
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