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思わず頬杖をついてため息をついた。
職務机から見える来客用のテーブルセット。
その上に出しっぱなしにしていた招待状が目に入ったからだ。
目に入った、というよりもそれを眺めてぼうっとしていたといった方が正しい。
手元にある書類はすでに1時間近く前から一枚もめくられていないし、気分を落ち着かせようと煎れた温かな紅茶も今は冷えきってしまっている。

招待状、それは約一ヶ月前に郵便受けの中に入っていた。
アメリカの誕生パーティへの誘いだった。
行く気は、なかった。
7月4日、忘れることの出来ない日を誕生日とするアメリカ。
普段から会議やらなんやらで顔を合わせることの多いアメリカだけれど、この日に会うのは憚られる。
もう、何百年も前のことを引きずっていることを自分自身情けないとは思うものの、気持ちに整理がつかないのも事実だった。
現に、俺は今開かれているパーティへ参加していない。
プレゼントは事前に送っていたし、彼も文句はないだろう。
俺が一人いなくても、世界一の大国の周りにはいつも誰かがいるのだから。
俺以外はみんなきっと彼の誕生日パーティに参加しているのだろう。
去年も、その前の年も、全世界から祝われていたのを知っている。

もう一度大きく息を吐いた。
情けない。これじゃあ拗ねているだけじゃないか。

紅茶を入れ直そうとカップを手に立ち上がった。
そのとき、呼び鈴が鳴る。
誰だ、と思ったものの、今俺を訪ねてくるような人物など上司しか思い浮かばない。
上司となれば、無視するわけにもいかないだろう。
今人と会うのは気が進まないが、そうもいかない。
手にしていたカップを元の位置に戻し、緩めていたネクタイを締め直しながら玄関へ向かった。

***

「何呆然としてるんだい?」

玄関の扉を開けた先にいた人物を見て唖然としていた俺に、来客は呆れたように言った。

「なっ、お前なんで・・・」
「ここにいるのかって?君が来ないからだろう」

憮然とした態度で俺の前にたたずむアメリカに、かける言葉が見あたらない。
今日の一番の主役であるアメリカはこんなところにいるはずがないと頭で理解しようとしている俺に、アメリカは大げさにため息をついた。
主役がパーティを抜け出して、なぜこんなところに。

「・・・みんなは」
「あぁ、みんなはまだ俺の家で騒いでいるよ。日本なんて俺の家のケーキを見て顔を真っ青にしちゃってさ」
「なんで・・・」
「だから、君が来ないからだろう。何度も言わせないでくれ」

まだ、思考が追いついてこない俺は、ただただアメリカを見上げることしかできない。
眼鏡の奥に見える綺麗な碧が、俺を映し出しているのが見えた。

「俺は仕事が・・・」
「またそうやって言い訳ばかり。聞き飽きたよ。あぁ、プレゼントは受け取ったよ、ありがとう。でも、君がいなくちゃ俺は嬉しくない」

アメリカは、俺の手を取って引き寄せた。
おめでとう、まだその言葉は言えないけれど待っていてほしいと思う。
耳元で囁かれた言葉に、俺は一言、馬鹿と囁き返した。

だから、ヒーローが君をさらいに来たのさ!


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沙奈の誕生日に合わせて、アメリカの誕生日も一緒にお祝いしよう企画(勝手に)



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