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「お前が見たいって言ってた映画、DVD借りたんだけどどうする?」

今日の昼休みにハンガリーに言われた言葉に、俺はすぐに行くと返事をした。
前々から見たいと思っていた映画だ。
アクション物のそれは結構人気作品で、借りようと思ってもDVDはいつもすべて貸し出し中だった。
それを以前何かの拍子に話したことを覚えていたのか、ハンガリーは無事にレンタル屋で借りれたようだ。


放課後、意気揚々とコンビニで飲み物とお菓子を買い、ハンガリーの家へ向かった。
ハンガリーとともにこの道を歩くのは、そう珍しいことではない。
適当に理由をつけては遊びに行く家だ。
…二人きりというのは案外少なかったりはするのだが。

「おい、プロイセン。お前俺の部屋汚すなよ」
部屋に着き、先ほどコンビニで購入したお菓子を広げているとハンガリーにそう言われた。
「お前なー、俺様がそんなに信用ならねぇのかよ」
「いや、信用とかそういう問題じゃねぇだろ。お前いっつもお菓子食う時とかぽろぽろ落とすじゃん」
「落としませんー」

まぁいいけど、とかぼやきながらハンガリーは小さくため息をつき、DVDをセットし始めた。
会話は途切れたが特に気にすることもなく、俺はベッドを背にテレビが見やすい位置に座り込んだ。

そう、ここまではよかったんだ。
いつも通りの、たいしたこともないただの日常。
少しだけ違ったのは、いつもよりも近くにハンガリーが座ってきたこと。

ドキリとしたものの、ちらりと隣を見るとあまりにも普通にリモコンで字幕やらなんやらの操作をしているものだからまぁいいかと済ましてしまった。
映画が始まってからもその距離は変わらない。
むしろ、テーブルに乗せているお菓子やジュースをとろうとするとお互いの腕が当たったりするので俺はその度に緊張するはめになった。
おかげで見たかった映画の半分以上が頭に入ってこない。
なんで俺こんなに緊張してんだよ!と自分につっこんでみたものの、当てはまる感情に顔が火照る。
あぁ、こんなはずではなかったのに。
ハンガリーは別に俺のことどうこう思っているわけではない、と思う。
ただ俺の一方的な想いだ。
だから、隣に座るハンガリーはいつもより少し距離が近いことだって何も気にしていないのだろう。
あまりにもいつも通りのように見えたから。

映画の途中なのに考え事をしていた俺は、ふっと目の前が暗くなったことに気付くのが遅れた。
ハンガリーと目が合う。
「なっ、なんだよ」
距離が近い。ということは、顔も必然的に近くなる。
もう俺の目にはハンガリーしか写っていない。
「お前さ、これ見たかったんじゃねぇの?つーか何考えてんだよ」

すべてを見透かしたように問い詰められているような錯覚に陥った。
まさかそんなことはない、とは思っても咄嗟に言い訳が思いつかない。
「そっ、れは…」

至近距離で視線を合わすことができずに少し俯く。
それとともに視線はハンガリーから外れる、はずだった。

プロイセン、と名前を呼ばれたかと思った瞬間に唇に感じる熱。
下から覗きこまれるようにしてハンガリーが俺にキスをしているのだとすぐには気付けなかった。
実感を伴ったのは、閉じられていたハンガリーの目が開き、再び目が合った瞬間。
呆然としている俺に対して何を思ったのか、ハンガリーはポンポンと俺の頭を軽く叩き勝気な笑みを浮かべて言った。

「俺が、気付かないとでも?」

ゆっくりと発音されたその言葉は俺の体温を上昇させるには十分なものだった。

「おまっ、なんなんだよ!なんで、こっ、こんな…!」
「分からない?」
「分かるわけねぇだろっ!」

ふいに右腕をひっぱられて、その力に負けて前へ倒れこむ。
もちろん前にはハンガリー。
俺に都合のいい言葉が耳元で聞こえた。
まさか、そんな馬鹿なことあるわけない。

だけど抱きしめられたような形になってひとつ、気付いたことがある。
俺の心臓もあいつの心臓も、同じくらい、同じ速度で鼓動を刻んでいる。
それはもう全力疾走した後のような。

「信じた?」
「…信じた」

はぁー、カッコ悪ぃと呟いたハンガリーの言葉に俺は頷いて同意した。
そのあとに、それでも好きだけどと呟いた俺の言葉に返事するように抱きしめる腕が強くなったのは気のせいじゃないだろう。


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09.10.23


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