402
俺の家に向かう並木道。
青々と生命を主張している木々の葉が、先程の通り雨にぬれてキラキラと光っている。
隣を歩いている慈郎がひょこひょこと楽しそうに歩くので、その度に彼の緩くカーブを描く柔らかな金髪が揺れた。
「晴れたねー。見て見て南!飛行機雲!」
眩しそうに空を見上げる慈郎の視線を辿って見上げてみると、真っ白な雲が長く伸びていた。
「おー。なんか、慈郎っぽい」
「え、何、どこが!?」
「ん?なんか真っ直ぐなとこが」
「わー、南はずかしー…」
大きな瞳を輝かせて興味津々に俺の顔を覗き込んだかと思えば、今度は照れたように頬を赤く染め、ふい、と顔を逸らした。
素直で真っ直ぐなところが、慈郎のようだと、そう感じたのだけれど。
ぱたぱたと音を立てて数歩先に駆けだした慈郎の背中を見つめていると、彼は数メートル先で立ち止まった。
彼のもとに届くように、声を出す。
「俺たちが初めて会ったのも、今日みたいな初夏だったな」
もう2年も前だ。
長いようで、あっという間に過ぎ去った時間の中で、様々な想いを抱え、受け取り、受け入れられた。
まだ、慈郎は振り返らない。
見つめたままでいると、綺麗に通るまだどこか高さの残る声が耳に響いた。
「試合会場で南を見つけた」
「楽しそうにボールを追いかける慈郎を見た」
「ふふ、おれ一目惚れだよ?」
「それはそれは。光栄だな」
本当だからね、と釘を刺すように慈郎が振り向いた。
日溜まりの中で彼が楽しそうに笑う。
慈郎と出会って、笑顔にたくさんの種類があることを知った。
涙は辛く悲しいものだけじゃないと知った。
幸福を、知った。
刹那、俺たちを通り過ぎるように吹き抜ける風。
ざわりと木々が鳴いて、泣いた。
滴がカッターシャツを濡らしたのが分かった。
じわりと染みが広がる。
「南、大好き」
ふわりと笑う慈郎目掛けて駈け出して、抱き締める。
「俺も好きだよ」
腕の中にいるのは、奇跡だ。
**********
10.07.12