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*光謙、コハユウコハ要素有り。


部活仲間兼友人がこれもまた同じ部活仲間兼後輩と付き合いだしたと聞いたのはいつだっただろう。
はじめは信じられなかったものの、数日もすると信じざるをえなかった。
あの生意気で人を小馬鹿にしたような笑みしか見せないような財前が、謙也の前では表情を柔らかくして笑うのだ。
以前からもそうだったけど、なんか最近そういうことが増えた気がする。
俺の観察眼を持って言うてるんやから間違いない。


「先輩、何そんなとこでぼうっと突っ立ってんすか。邪魔」

部活中、先輩を先輩とも思っていない後輩はちらりと視線を寄こした後にこう言った。
ちなみに俺は邪魔になるようなところに立ってはいない。
コートから少し離れたフェンスに凭れているのだから邪魔もなにもないだろう。
こうやって話しかけてくるのは素直に俺に話しかけられない後輩からのアプローチだと気付いたのはいつだったか。
現に、邪魔と言い捨てたにも関わらず、財前は俺の隣で大人しくボトルに入った水を飲んでいる。
そういう小さなことに気付き始めると、この生意気な後輩の裏側を見ているようで面白い。
その場を去ろうとしない財前に問いかける。

「お前、謙也のどこが好きなんや?」
「は?なんなんすか、いきなり」

訝しげな視線を寄こす財前に、んー、いやなぁ、と言葉を濁す。
別に詮索するつもりはない。
けれど、つい気になってしまって声に出してしまったものは仕方がない。
言ってしまえば、もう答えを待つのみだ。

「やってお前ら正反対やんか。謙也は超直球型、財前は超変化球型」
「それ、本人前にして言います?普通」
「お前そんなん気にせぇへんやろ」
「よう分かってますね」
「こちとら研究済みやねん。なにわの物まね王なめんなや」

はぁ、と諦めの混ざった、というよりうざいという気持ちのこもっているであろうため息をついた光は無意識だろうか、謙也を探すかのように視線を巡らせた。
一点を見つめ、ふっと笑ったのを俺は見逃さない。
で、と先を急かす。
なんだかもったいぶられているようで気になった。
詮索する気はない、と思っていたが、人間やはり気になるものは気になるらしい。

「全部っすわ」

は?と間抜けた声がした。
いや、多分俺が発したのだろうけど。
もしかして俺は今まさに豆鉄砲をくらった鳩というやつのようになってるんやないやろか。
想定外の言葉に時間が一瞬止まった気がする。


「やから、全部や言うてますやろ。それが答え。あんたもそうやろ」

聞いておきながら言い切りの形を取ったのは、聞くまでもないということだろうか。
俺もそう?
あぁ、確かに。
俺も小春の全部が好きや。
そして思う。

「なんかお前、可愛くなったんとちゃう?」
「気持ち悪いこと言わんといてください」
「いや、ほんまに謙也好きなんやなぁ思て」

は?この人何言うてるん。
まさにそんな視線が突き刺さる。
真横から突き刺さる鋭い視線。
前言撤回。
可愛くない。
こいつが可愛くなる瞬間なんて謙也の傍にいるときか、謙也の話をしている時だけだ。
そうや、きっとそうや。

俺も大概目付きが悪い言われるけど、こいつもどっこいどっこいやで、と思う。
どうやってこの視線を掻い潜ろうかと思案した瞬間、そんな話をしているだなんて思っていないだろう二人からコートの中から声がかかる。

「ひかるー!何してん!次ダブルスやで!はよしぃやー、白石に怒られんで!」
「ユウくーん?はよせんとネタ打ち合わせの時間なくなるでー!」

一瞬で感じていた視線は逸らされた。
お前どんだけ謙也好きやねん、ほんま。
呼ばれた瞬間、小春しか目にない俺も俺っちゅうことか。

背中を預けていたフェンスから身を起こすと、カシャンと音が鳴った。
地を蹴って駈け出したのは俺が先か財前が先か。

「ま、惚れたもん負けっちゅーことっすわ」

振り向いた財前がにやりと笑ってそう言った。
それは何か?
謙也やなくてお前が先に謙也に惚れたっちゅう話か。
それとも俺の座右の銘をぱくっただけか。
とりあえず、むかついたのでどついてやった。

「それは俺の台詞や、阿呆!」

ふっと笑った顔は、やっぱりどこか可愛かった。
でももちろん、小春には負けるけどな。


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10.10.24



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