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*高校3年
*ちとくら、光謙前提


なんだかとても不思議だった。
彼も、自分も。
こんなに恋に溺れてしまうだなんて。


「もう何年?」

俺の問いかけに、真正面に座っている白石が3年、と答えた。
困惑することもなく、目の前にある弁当をつつきながら。

「3年かぁ。めっちゃ早い気すんねんけど」
「これがあっという間ってやつなんやろ」

昼休み。
高校に入っても相変わらずなぜだか同じクラスになりつづけている俺と白石はひとつの机に二つの弁当を広げてざわざわとうるさい教室の中、昼飯を食べていた。

中学時代、共に過ごしてきた仲間はなんだかんだで全員同じ高校に進学した。
今度こそみんなで全国制覇を。
俺たちの夢はまだ続いている。
そして、俺と白石の恋もまだ、続いている。

「今日もまた千歳ん家出勤ですか」
「出勤ってなんやねん。学校やで。通学や通学」
「つっこむとこはそこか阿呆」

箸で弁当の中の卵焼きをつまんだところであることに気付く。

「てかなに、弁当はもしかして白石くん手作りですか」
「せや。完璧な栄養バランスやで」
「…すばらしい奥様ですこと」

もうなにも突っ込む気にもなれず、はいはいとそのあとに続く白石の無意識な惚気を聞き流した。
どうせ、隣のクラスの千歳も今頃その完璧な栄養バランスだという弁当を食べているのだろう。
でかい図体に似合わない、その綺麗に彩られた可愛らしい弁当を。

「お前も財前に弁当でも作ってやればええやん」
「俺がそんな器用なことできると思うか?」
「無理やな」
「即答ですか」

あまりにすぐ無理だと言うので、思わずがっくりと項垂れた。
そこで考える。
俺が光にしてやれること。なんやろう。

「…ないな」
「いや、もうちょい考えろや」

最後の飯を一口、口の中に入れて咀嚼したそれを飲み込む。
うーん、と唸りながら考えてみるけれど、本当に何も思い浮かばなかったので「うん、ないわ」と言うと白石に呆れられた。

「まぁでも、財前の場合は謙也がそこにおるだけでええんやない?」
「はぁ?何恥ずいこと言うとんねん」
「いやほんまやって。お前気付いとらんやろけど、表情がちゃうで」

俺らの前と、お前の前とじゃ。
そう付けたしてニッコリと笑う白石に首を傾ける。
それと同じタイミングで、ポケットに入れていた携帯のバイブが震えた。
取り出してみると、新着メール一件、の文字。
手慣れた手つきでメールを開くと、そっけない文章で『新しいゲーム入荷しました』という一文。

「可愛げない奴やなぁ」

思わず呟くと、そういうところが可愛いんとちゃう?と白石に言われた。
それを否定しながらぽちぽちと『行く』と一言だけ返す俺も、まぁ可愛くはないだろう。
それでも今日の放課後のことを考えると顔がにやけてしまうのは止められない。

「いややわー、こんな惚気られて」
「それ、白石にだけは言われたくないっちゅー話や」

二人でくすくすと笑いながら、思い浮かべるのは愛しい人。
今頃何をして、何を思っているのだろう。
今日は彼と何をしよう。
あ、でもその前に元気にラケットを振ることも忘れずに。


「神様に抱きつきたくなるくらい、幸せやな」

白石の言葉に思い切り頷いて、顔を合わせて二人で笑った。


地球は廻り続けて、時間も流れ続けて。
それでもそこに愛する人がいて、愛しい彼らがいて。
大好きなテニスができる。
そんな毎日に、感謝を。


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10.08.03



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