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梅雨の合間、久しぶりに見る太陽を見上げて目を細める。
放課後、テニスコートに向かう途中でなぜだかとても、嫌な予感がした。
方向転換をしようと後ろを振り向こうとした瞬間、ぽんと肩を叩かれる。
あぁ、手遅れだった。

「久々に晴れたなぁ。お前体鈍ってへん?」
「アホなこと言わんといてくださいよ。まぁ鈍ってたとしても謙也さんには負けませんわ」
「お前、ほんっまに可愛げないなぁ」

隣に並んでブツブツと文句を呟く謙也さんを横目で見やる。
太陽の光に反射している少し痛んだ金髪がきらりと光ったのが見えた。
思わず綺麗だと思ってしまった自分を誤魔化すように、肩にかけているテニスバックを持ち直す。


「あれ、千歳と銀さんやん。健二郎もおる。めずらしー」

結局、逃げる機会を逃してテニスコートに向かっていると、珍しい三人組を見かけた。
なんとも目立つ。でかすぎるのだ。
どうせ久しぶりの良い天気を理由にサボろうとした千歳先輩を師範と副部長が見つけて部活に引っ張ってきたのだろう。
副部長だけなら逃げ切れる千歳先輩も、師範に見つかったらそうもいかないらしい。
師範に逆らえる人を俺は知らない。
千歳先輩も然り、だ。

そしてまた目に入ってきた濃すぎる二人。
名前を呼びあいながらいちゃいちゃしているのは、ネタなのか、本気なのか。
考えたくもない。
なぜなら、あの人たちに絡まれたら終わりだからだ。

何もしていないのにどんどんと集まるレギュラーメンバーにため息をつく。
あの輪の中に自分がいるなんて信じたくない。
俺は普通だ。

「おー、どんどん集まるなぁ」

そんな気持ちを知ってか知らずか、隣の謙也さんがどことなく嬉しそうに呟いた瞬間、何かが隣を駆け抜けて行った。
一番の問題児の登場だ。
あいつの周りにはいつも風が生まれる。

「みんな何やってるん!はよコート行くで!テニスやテニス!試合しよーや試合!」

ぴょこぴょこと飛び跳ねながら大声で叫ぶ遠山に顔を顰める。
相変わらず、うるさい。
そしてその有り余った元気はその小さな体のどこから生まれてくるのか。

「なぁ、ええやろ?しーらーいーし!」
「アップが先やで、金ちゃん!急に試合はあかん。言う事聞かんと…」

後ろから聞こえてきた返事に振り向く。
部長が左手を上げた格好で立っていた。
なんというか、不格好だ。
ぎゃあと叫びながら、分かったと返事をする遠山に、部長は苦笑した。


久々にテニスコートで走り回れるのだ。
体育館での基礎練習や校内の走りこみだけでは、体が疼く。
遠山だけではない。
それは、きっと誰もが感じている。
だからこんなにも騒がしい。

暴れまわる遠山を見ながら、いつも通りの風景が戻ってきたことを改めて実感する。
その中心で騒いでいる謙也さんを見るのもいつも通り。
それを見ながら笑っているレギュラーメンバーを見るのもいつも通り。
いつも通り、と思ってしまう時点でなんだかんだここに馴染んでしまっている自分に呆れた。
というか自分の隣にいた謙也さんがなぜあの場で遠山の被害にあっているのだろう。
まぁそれも、いつも通り。


「悲劇やな」

部長が謙也さんを眺めながら苦笑している。
そろそろ止めに入るのだろう、遠山限定で武器になるその左手をそっと撫でた。

「あら、ある意味喜劇よ」

いつの間にか隣に移動してきた小春先輩が心配そうに、それでもどこか楽しそうに笑う。
笑いが絶えないのだから、喜劇も案外間違っていないのかもしれない。
それでも。

「そんな綺麗なもん似合いませんよ、先輩。こんなん新喜劇で充分っすわ」

俺の言った言葉に納得したのか、隣で二人の先輩はあぁ、と面白そうに呟いた。
上を見上げる。
相変わらず、晴れ渡った空が見えた。

今年もそろそろ夏が来る。
熱い、夏が。



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10.07.14



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