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最近ふと気付くと目線で追っている。
街中でよく見かける、一般的にヒョウ柄呼ばれるそれ。
ファッションの一部として取り入れられているそれは、帽子だったりインナーだったりアウターだったりと、人の身につけるものの中で見つけることができる。

なぜ、それを俺は目で追ってしまうのか。
心当たりはひとつしかない。
またすれ違った人のアクセサリーがヒョウ柄だったのを見て、俺はひとつため息をついた。

それを見るたびに、俺は思い出してしまうのだ。
大阪にいる、俺の、恋人を。
彼は、いつもどこかにヒョウ柄を身につけている。

東京と大阪ではしょっちゅう会える距離ではない。
連絡をとる手段といえばメールと電話。
それでも、普段からテニスばかりしている俺とあいつではそれらの回数も少ない。
現に、今日はまだ一度も連絡をとっていない。
もう日が暮れるというにも関わらず、だ。
ポケットに入れていた携帯を取り出して、いつもどおりの待ち受け画面を見て落胆。
新着メールの文字も、着信ありの文字もない。
ポケットに携帯をしまいながら、またひとつ小さくため息をついた。

こんなの、俺のキャラじゃない、と思う。
生意気で、クールで、唯我独尊。
以前先輩たちから言われた俺の特徴だ。
どこがだ、と今となっては思う。
恋人からの連絡がこないだけで、こんなことになるなんて、以前の俺からしてみれば想像もつかないことだった。
というよりも、恋しいと思える相手が見つかったことですら奇跡に近いのではないかと思う。
それくらい、テニス一筋だった。
いや、それは今でも、か。
そしてそれはあいつにも言えること。
金太郎だって、テニス一筋だ。
だからこそ、連絡が来ない。
今日が部活休みな俺に対して、四天宝寺は練習日だろう。

ストリートテニスにでも行こうか、それとも久々に親父と打ちあってみるか。
そんなことを考えながらいつも通りの帰り道を歩く。
ふと、微かな振動を感じて立ち止まる。
マナーモードにしてポケットに入れていた携帯が、着信を告げていた。
先程落胆していた気持ちが嘘のように軽くなるのが分かる。
待ち受け画面に表示されている名前を見つめて、どくんと胸が脈を打った。

「…もしもし」
『なんや、コシマエ、電話出るん遅かったなー』

一度呼吸を整えたのだから当たり前だろう、という言葉は胸にしまって、別に、とだけ呟いた。

「ていうかさ、いい加減それ、やめたんじゃなかったわけ?」
『あー、もう癖みたいなもんや』

男くさく笑う顔が思い浮かぶ。
2年前に比べて伸びた身長はいつの間にか俺を追い抜き、今では少し見上げる高さだ。
表情も、仕草も、笑い方も、いつの間にか大人びたものに変化した。
それを見るたびに、悔しいとも思うし、格好いいとも思う。
今はそれを想像するしかなく、会えない距離がもどかしい。

『なぁ、リョーマ。ワイが今どこにおるか分かるか?』
「は?何言ってんの。おおさ…」
『東京駅や!』

俺の発言を遮って聞こえてきた単語に耳を疑った。
東京駅、と言ったかあの馬鹿は。

『はよ迎えに来てなー。やないとお仕置きしてまうでー』
「…何それ、むかつく」

そう言った俺の足は、すでに方向転換をして歩きだしていた。
電話口からくっくと笑う声が聞こえてくる。
あぁ、きっとまたあの笑顔で笑っているのだろう。

「そこ、動かないでよね。どうせすぐ迷子になるんだから」
『分かっとるって。あー、はよリョーマに会いたいわぁ』
「…よくそんな恥ずかしいこと言えるね」
『なんや、照れとるんかいな。かわええやつやなぁ』
「はいはい」

通話は切らない。
このまま、東京駅まで行こう。
愛しい声を聞きながらそこに行けば、会いたかった笑顔に会える。

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