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現実と非現実の間。
今あたしはその間にいる。
ようするに、ちょうど睡眠状態から抜け出して目を覚ます、その間。
それはちょうどいい浮遊感をもたらしていて、とても心地良い。
ただ。
少し肌寒いのは気のせいか。

掛けている毛布を手繰り寄せて寒さから身を凌いだ後に、そっと瞳を開ける。
まだ覚醒しきっていない頭、そしてぼんやりとした視界の中。
それでも、隣に寝ていたはずの兵助が体育座りで膝に交差させた腕と顎をのせてぼうっと窓の外を見ているということだけは分かった。
そして、兵助が隣に寝ていなかったから肌寒かったんだな、ということも。

「へい…?」

寝起き独特な少し掠れた声で、兵助の名前を呼ぶ。
どうしたの、と続けようとしたところで兵助がこちらを向いた。

「雨、降ってる」

あーあ、兵助はそう言って今度は腕に押しつけるようにして顔を伏せた。
今日は兵助もあたしもバイトもない日曜なんて久しぶりだから、と何週間か前から遊びに行こうと予定を立てていた。
ちらりと、ベッド横のサイドテーブルを見るとそこには少し寂しそうにぽつんと置かれた使い捨てカメラ。
今日のためにと昨日近くのコンビニで買ったものだ。
デジカメもあるにはあるのだけれど、現像に出していなかったから消せないデータでいっぱいだった。
だから久しぶりに使い捨てカメラで一発撮りもいいじゃない、と二人で笑いあいながら買ったのだ。

「へいすけー」

もう一度名前を呼ぶと、今度は態勢を崩してあたしの横に潜り込んだ。
何、と少し不機嫌そうな声で返事をしながら。
それは、なんだか相手にしてくれない飼い主に文句を言いながら近づく猫のようで。

ぎゅう、と自分よりも華奢な体を抱きしめる。

「ね、今日はずっと家でゆっくりしよっか」

癖のある、それでもさらさらと流れるような黒髪にキスをしながらひとつ提案。
あ、寝癖発見。
くるりと跳ねた毛先がなんとも愛らしい。

もぞもぞと自分の居場所を探していた兵助が、居心地のいい場所を探し当てたようでやっとこちらを向いた。

「せっかく久しぶりに二人でデートだったのに」

新しいグロスだって買ったのに、そうぼやく兵助がとても愛おしい。
化粧をしていなくたって、兵助はとても綺麗だ。
こんなに近くで見てもそう思える。
ぱちりとした二重の目、そしてそれを縁取る長い睫毛。鼻筋の通った高い鼻に少し小さくて薄い唇。そして何よりも透き通ったような白い肌。
あたしなんかにはもったいない、いつもそう思うけれど兵助を手放す気もない。
だって、あたしは兵助がすきだから。

「兵助、好き」

思ったことをそのまま口に出すと、少し唇をとがらせてつんとしていた兵助の表情が明るくなった。

もうちょっとベッドでだらだらと過ごしたら、おそろいのマグカップにココアを注ごう。
朝ごはんにはほかほかのホットケーキにシロップをかけて。
降りやまない雨の中、あたしたちは閉じ込められて今日はこのまま二人っきりで家デート。
もちろん、使い捨てカメラの中にはあたしたちの日常を。

「私だってはっちゃんのこと好きよ」

兵助は、そう言って笑った。

あぁ、起き出す前にキスを送ろう。


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09.12.18


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